角田 : 受賞、本当におめでとうございます。
大田 : ありがとうございます。
角田 : 私の感想としては選考委員が一緒に「これはいい」と意見が合うことはあまりないんですね。でも、今回はもめることもなく意見がぴったりと合って、すごく嬉しかったです。
大田 : 本当にありがたいです。
角田 : 受賞の知らせのお電話をもらったときは、どんな感じでしたか?
大田 : ちょうど電話がきたときは昼寝していたんですけど、「光文社というところから電話が来ている」と言われて、何の会社だか思い出せなくて。
角田 : そうなんですか。
大田 : 書いたあと、何回か自分で読み返したら、これはもっとうまく書けたはずだなと思っちゃって。選考も諦めていたから、経過を見てなかったんです(笑)。だから、電話で「おめでとうございます」と言われて、2日間ぐらい、心臓がバックンバックン鳴りっぱなしでしたね。まわりにも、詐欺なんじゃないかとか、色々言われました(笑)。
角田 : 小説を書き始めたのは何歳くらいからだったんですか?
大田 : 高三ですね。携帯に文章だけ打っていたんです。それで卒業した後に1カ月ぐらい休みがあったので完成させようと思ったんですけど、結局駄目でした。就職してからは本当に何もしなくて、小説もあまり読んでなかったです。
角田 : へえ~。
大田 : でも、やっぱりもう1回書きたいなと思って再開したんですけど、今度も駄目で。それで、1から新しく書いてみようというので書いたものがこれです。だから完成させたのは、これが初めてですね。
角田 : まだ2作目で、そのうちの1つは終わらせてないわけですね。じゃあ、その前の作品はもっと長かったんですか?
大田 : 長い予定だったんですけど、それも100枚ぐらいで結局うやむやになって。
角田 : それは、普通の現代小説ですか。
大田 : そうですね。どっちかというと、ライトノベルに近いような。
角田 : なぜ、高3のときに小説を書こうと思いついたんですか?
大田 : 何かやってみようと思ったんです。それまでは将来なりたいものが全くなかったんですけど、小説は1回書いてみたいなと思っていたんで、じゃあやろうと。
角田 : 小説を書こうと思ったときに、最初の作品は最後まで書けなかったにしても、100枚を書いているわけじゃないですか。わりとスラスラ言葉は出てくるものですか?
大田 : そうでもなかったですね。どうやって書けばいいか全然わかりませんでしたし、3行書くのに3日使ったりとか、進まないときは全然進みませんでした。
角田 : そうですか。途中で「止めようかな」とは思いませんでした?
大田 : 半分は趣味感覚だったので、割と楽しんで書いてましたね。この賞の締切前はちょっとキツかったですけど。
角田 : 奥田さんと話していたのは、設定がすごく変わっているじゃないですか。さらし首が主人公で。
大田 : そうですね。
角田 : 私は最初に読んだとき、この人はこの設定で書き始めたけど、30枚か40枚ぐらいで詰まってしまって、絶対に設定を変えるだろうと思ったんですよ。首を立ち上がらせるとか、他の人に乗り移らせるとか。でも、最後まで首だけで書き切ったじゃないですか。途中で、首を主人公にしなければよかったとか思いました?
大田 : それは思わなかったですね。本当に自分の好きなストライクゾーンのど真ん中を書いたつもりなので。
角田 : この自分の好きなストライクゾーンというのは、いわゆる普通の恋愛小説とか、生きた人間が動いているような話ではないもの、ということですか。
大田 : そうですね。サクッと読んで、「ああ、面白かった」というぐらい軽く読める作品が好きなんです。
角田 : でも、全然軽くないですよ。
大田 : そうですか(笑)。
角田 : 多分、思っていらっしゃることと、書いてしまったものとの間にギャップがある気がします。軽い読み物として「ああ、面白かった」と終わるものを書いたのかもしれないけれども、もっと深いし、不思議な読後感もあるし。さらりと読めるタイプのものではないかもしれませんねえ。
大田 : へえ~。
角田 : ペンネームはどうやって考えたんですか?
大田 : 働いていたところが「ポンパドウル」というパン屋さんだったので、それをもじって本田十折(ホンダトオル・応募時の筆名)にしたんです。
角田 : なるほど。ペンネームはそのままでいくおつもりで?
大田 : それが、出したあとから知ったんですけど、書店に行ったら「本田透」という他の作家さんがいらしたんです。だからどうしようかなと思っています(その後大田十折に改名)。
角田 : この小説を読んで思ったのは、雨とか、草とか、光とか、自然描写がものすごく上手いんですよね。奥田さんも「この人は描写がとにかく上手い」ということを言っていて、一体どんな文学的素養を持って、どれだけすごいものを読んで生きてきたんだろうという話をしていたんです。
大田 : ありがとうございます。
角田 : あとで編集の方に20歳(応募当時)と聞いてものすごく驚いたんですよ。20歳にしては、成熟しているところがあったし。年齢詐称じゃないかとまで(笑)。
大田 : アハハ。
角田 : やっぱり昔から読書はお好きだったんですか?
大田 : 好きでしたが、授業中、暇つぶしに読んでいたぐらいですね。
角田 : ひょっとして、太宰治とか、夏目漱石とか、そういう人を意識して読んだことはないとか……。
大田 : 昔の作家の方の作品は教科書で読むぐらいでしたから。教科書も、授業中に読んで、読み終わったら使わないですし。友達が教科書をなくしたと言うから、あげたこともあります(笑)。「俺、使わないからいいよ」って。
角田 : え~。だってこれを読んだら、すごく小説を読んでいる人だと思いますよ。もちろん今の作家を読んでいるでしょうけれど、もっと何か、昔の作家を読んでいそうなんですよ。だから、すごく不思議。きっと持っている言葉が豊かなんでしょうね。
大田 : 小説を書いている仲間がいないので、そういうのは全然わからないんです(笑)。
角田 : 高校のときはどんな本を読んでいたんですか?
大田 : 乙一さんの本とかですかね。高1のときに友達に『GOTH』というすごい面白い作品があると言われて。乙一さんはそれがきっかけで好きになって、他の作品も探して読むようになりました。
角田 : あとは?
大田 : 他の作家さんだと石田衣良さんとか中場利一さんの本も持ってます。でも、何回も読み返したのはやはり乙一さんの作品ですね。
角田 : でも本当に私と奥田さんが言ったような意味でも、文学的背景はないですか?
大田 : う~ん。これを書いているときは頭の中で浮かんだ絵を普通に表現するのではなくて、何か違う言い方ができないかなと思って書いたりはしてましたね。
角田 : 主人公がさらし首だと、「ここは見えない」とか視線が限られますよね。よく新人の方は実際には見えないところまで書いちゃうんです。でもこの小説の不思議なところは、首の位置が絶対に動かないし、そこから見えるものしか書いてない。書いている間、首のイメージはありましたか?
大田 : 自分で主人公の視線と重ね合わせて、その中で書いていましたね。
角田 : 常に意識はしていらしたんでしょうけど、きっと天性のバランス感覚があるんでしょうね。設定は最初から、さらし首と決めていたんですか。
大田 : はい。元々首だけの人と、女の子の話というのがあったんです。そのとき、女の子は4~5歳ぐらいの小さい子で、外国の森の中のような静かな世界を書こうと思っていたんです。でも、書いてみたら、最初の3行ぐらいで全然違う設定になってしまって。そのまま書いてしまいました。
角田 : へえ~。でも、何で首と女の子というのが出てくるんですかねえ?
大田 : 何ででしょう。急に出てきたので。
角田 : 奥田さんは冒頭を「一気に読めた」とすごく褒めていましたよ。
大田 : 最初はスッと入れるようにしたかったんです。
角田 : やはりそういうことはちゃんと考えていたんですね。もし、これが落ちていたとしたら、また書きましたか?
大田 : また、書いて、どこかに送っていると思います。仕事を辞めてから4年くらいは大学に通っていたと考えればいいやと思っていましたし。結局これまでやっていて1番楽しいのは小説だったので、とにかく挑戦してみようと思ったんです。
角田 : 賞を取ったときに「これからは作家一筋で」という考えはなかったですか?
大田 : そうなれるのが目標ですが、それまではバイトをしておかなければと思っています。やっぱり体を動かさないと、体と頭が腐っていく気がするんですよ。
角田 : そうか。面白いですね。偏っていそうで、偏ってない。きっとバランスがいいんでしょうね。今後の予定としては? 本もこれからたくさん読んでいこうとか(笑)。
大田 : しばらく書いて煮詰まったら、時間を置いてたくさん読んでみようかなと思っています。読むと、すぐその書き方に影響されるんです。だからこれまでは、なるべく読まないようにしていたんですが......。
角田 : 私はデビューが23のときですが、編集者や同業者に会うと「何を読んできた?」と言われるんですね。答えると、「もっと他には?」と。それで答えられないでいると、「こんなに本を読んでない女がよく賞をもらえたもんだ」と言われてすごいショックだったんですね。でも、それでも何とか大丈夫だったので(笑)。
大田 : 20歳まで何もやりたいことのなかった自分が、やっと小説というスタイルを見つけたんで、とにかく精一杯やってみたい、それで駄目なら普通に就職して、真面目に働いていけばいいかと思っています。
角田 : でも、駄目なことなんてきっとないですよ。
大田 : そうだといいんですけどね。今後もあまり深く考えないで、ひょいと読めて軽く終われるぐらいの感じのが書けたらと思っています。
角田 : しつこいようですけと、軽く書いても、きっとそこで終わらない小説だと思います。だから、かえって楽しみですね。
――どうもありがとうございました。
![]() |
|
![]() |



