第2回小説宝石新人賞 最終選考 [完全載録]
奥田英朗×角田光代 第2回をむかえた小説宝石新人賞。第1回を上回るご応募を頂きました。最終候補作品を、選考委員のお二人にお読み頂きました。講評は、これから小説を書こうとしている方へのアドバイスでもあります。今年はどんな作品が受賞するのでしょうか。|進行・本誌編集長 丸山弘順 / 撮影・都築雅人

最終候補作品 応募総数1291作 * 石動純/黄昏に着る夜会服 * 越川三千雄/樹に憶う * 沢田瞳子/虹の末期 * 鈴木俊之/ミス・ジャッジ * 中島要/素見 * 藤岡陽子/海路 * 冬森けいこ/スウとライオンと薬草売りの男 作者五十音順 選考委員のお二人には、タイトルとペンネーム以外の情報は一切お伝えしてありません。――今年も数多くの応募をいただき、世に出たい作家の卵たちが沢山いるんだなと、実感しております。最終選考に残ったのは、全部で七作ありますが、一作ずつ講評をお伺いしていきたいと思います。順不同でいきます。
まず「ミス・ジャッジ」、奥田さんからお願いいたします。

奥田英朗 以下、奥田 : これは、ちょっと現実離れしていて、無理やり設定を作ったというところを感じた小説でした。何といっても文章に無駄が多いんですね。省いていいところまでどんどん書いている。
あと、「三つ数えろ」というのが決めゼリフというか、重要な要素になっていると思いますが、それも作者の一人受けの感が拭えないで、説得力に乏しい。そして、クライマックスに伴うかもしれない部分が完全に空回りしています。だから、何が言いたいのかが全くわからない。
隣人をフィルターにしての家族物語なのかもはっきりしない。ただ、物事を考えるときに一、二、三と数えているアイデア一つでここまで引っ張ってしまうのはいかにも無理がある。

角田光代 以下、角田 : 一貫して抑えたトーンで書いていて、小説のこの人なりの色というのは出ていると思います。
サッカーの試合をもうちょっと書き入れるか、ミスジャッジのシーンでもっと緊張感を持たせてもいいと思いますが、それがなかったのでちょっと空回りしたかなと思います。ミスジャッジが見えてこないがゆえに、騒動が起きたリアリティがつかみづらくなってしまっている。

奥田 : 息子がマスコミに飛びかかって暴力をふるうのはいいと思います。それをするんならば、そこから派生するドラマとか、家族の結びつきを描くとか。
子供が極端な行動に出るというのはわかりやすいというか、納得しやすいところがあるんですね。それをむしろ中心に据えたほうがよかったのかな。

角田 : 実は家族に問題があって、隣人の騒動に動揺して問題が炙り出されてきちゃったとか、何か一つ芯みたいなものを作ればよかったのかなと思います。

奥田 : ただ、文章に癖がないのはいいと思いますね。あれこれ言いたがるというか、主義主張をこめたがるけど、そういうことは全くないので好感が持てます。

角田 : もし、家族を書きたいのであればミスジャッジではなくて、もう少し身近な描写に終始してもよかったと思う。もし、ミスジャッジのほうが書きたいのであれば、もうちょっと何か説得力のある事件をおこさなきゃいけなかったのかな。

奥田 : とにかく、中途半端というのが一番の印象かな。どっちにもつかないで、淡々と話が進んでしまっているという。会話をもう少し整理しないと、読者に読んでもらうのは難しいと思いますね。

――では、次の作品にいかせていただきます。「虹の末期」です。

角田 : 作者が誰に、どの立場で語るかというところが決めきれてないまま書き出してしまった気がします。
急に説明が入ったりとか、ぐらついていて、誰がどこに何しているのかわからなくなることがたびたびあった。
途中で仙人みたいなおじいさんが出て来て不思議な予言をする、あの場面はものすごくよくて、芥川龍之介みたいと思いました。この場面はこんなにいいんだけれども、何かもったいない使い方をしているような気がします。

奥田 : 参考文献を出しているということは、これは史実に基づいているんだよね。この主人公はともかくとして。彼という家来の視点で書くのにそもそも無理があったと思います。
それから、角田さんが言ったみたいに老人が予言をするところはいいシーンだったと思います。
この人は知っていることを全部書こうとしているわけですよね。解説は必要最低限にとどめるべきだし、やはり小説というのは人間のドラマですからね。解説している合間に登場人物がちょこちょこ動いているというところがあります。
老人が予言をして、予言がこういう形で当たったのかという意外性が、この小説の核だと思うんですよね。もっとその部分だけを膨らませて、余計な部分はガンと切って、ホラーっぽいものにしたほうがよかったのではないかと。

角田 : 最初に老人の場面をもってくれば、読み手はパッと入れたと思います。

奥田 : この人は相当歴史に詳しいですね。きっと、好きなんでしょうね。でも自分の知っていることから書くというのは、やめたほうがいいんですね。

角田 : どうしても、専門知識に頼るところがあるかもしれないですね。裏話とか、普通の人が知らないことを書けば、それが小説のリアリティになると思っている人もいるかもしれない。でも、リアリティは多分そういうことでは生じないです。

奥田 : 小説のリアリティは登場人物のリアリティなんですよ。決して、情報のリアリティではないわけで。
かえって、知らないことを書いたほうが迂回しようとするから、逆に無駄が省けていいかもしれない。

――次は、「黄昏に着る夜会服」です。

奥田 : すごいタイトルだな。
まず、ストーリーに説得力がないんですね。書き出しから何が何だかわからないというね。最初は、サスペンスかと思ったんですよね。ところが、全くそういう話ではなさそうだし。語り口は軽妙洒脱でいいんだけれども、作者だけで盛り上がっている感じがどうしても拭えない。
中年男の再生物語は、どうしても自己陶酔に陥りやすいわけですね。これはもろにハマっていて、感嘆符の多さとか、完全に自分一人でウケちゃっているところがある。読者を遠ざけてしまうんですね。この語り口だと、やはり50枚が限度だと思いますね。これで突き進むのはちょっと難しいと思う。それからもっとキャラクターを作ってもいいんじゃないかなと思った。
ラーメン屋がだんだん繁盛していく様子は結構コミカルなので、そこからもっと別の話に持っていったほうがよかったんじゃないかな。
女の子との話にしても自分だけ熱くなっているところがあるんですよ。もっとクールに書かないと感動が伝わってこない。
中年男の再生の物語にするんなら、もっと主人公をダメ男にしないと、ご都合主義でちゃっかりもてたりするようなところは納得がいかない。自分自身を投影しちゃってるところが一番の問題点ではないか、と思いました。突き放せないと、物語として一人歩きしていかないですね。

photo角田 : この人の一番気になるのは、途中からライターズハイみたいになっちゃって、すごいことになるんです。どんどん加速してくるんですよ、文章が。
それで、この人が加速すればするほどこっちは置いていかれて、「どうしちゃったんだろう」と不安になるぐらいで。
でも、この人はこの七本の中で一番楽しかったと思うんですよ、書いていて。ただ、自分の言葉に本当に引きずられすぎです。それで、ストーリーも人物も彼の頭の中から出てこないから、本当に都合よくすすみすぎて、ご都合主義に見えてしまうようなところがあった。

奥田 : プロの犯罪組織に追われてどうのこうのってね、ほとんど妄想狂に思える(笑)。この主人公の妄想ということにすれば面白かったかもしれない。

角田 : そうですね。コメディタッチで。

奥田 : この「黄昏に着る夜会服」というタイトルにしても、最後にちょっと出て来るというだけなのでね。本人には、これは決めゼリフなわけだろうから。
これを書いて自分が一番励まされたのかな。

角田 : そうですね。ご都合主義だけれどもストーリーがこんがらがって小説になってないという話ではないので、文章とかももっと落ち着いて書けばいいと思います。訳がわからないところもないし。

奥田 : この調子で、ここまでやるとすごいよね(笑)。

角田 : 確かにすごいですね。

――では、次「海路」をお願いします。お気づきになったかとも思いますが……。

角田 : 去年も最終候補に残った人ですね。前回よりうまくなっているというか、前回の自分を抜こうとしている努力がありましたね。

奥田 : あっ、そお?(笑)。
出て来るエピソードが、ほとんど小説の中で功を奏していない。エピソードというのは、もう少し本筋で受けるものでないとまずいわけですね。先生が消えるとかはいいんだけれども、もうちょっとその説得力がないと、何で沖縄へおっかけて行くのかというのがわかんない。
でも、最終に残った七話の中で、書いているときに作者が幸せなんだろうなというのを一番想像できた作品ですね。
作者自身のセンチメンタリズムからいかに脱却するかというのが、この人の最重要課題だと思うんだけれども、ひょっとしたら、これを通せば何とかなるんじゃないかという気がしないでもないかな。あと、心理描写がちょっと足りないかな。
もうちょっと、自分が一番触れられたくないようなところを書いちゃうとかね、そういうことをしていかないと扉が開かないと思います。でも嫌な感じはしなかったです。

角田 : 奥田さんがおっしゃったように、この人は何かがうまいんだと思います。だから、上がってくると思うんですね。光景を見せる力がある。坂道とか下町の感じとか、古臭い病院の静かな感じとか、沖縄に行って光が変わるとか、景色を見せる力が非常にあると思うんです。
去年はただおとなしい小説という印象でしたが、非常に上手くなったと思うんです。
ただ、この人はお話を作ろうとしすぎちゃって人が書けてないなというのがあった。例えば、前の恋人がステレオタイプの悪いヤツで、普通、こんなに嫌な人とは一緒にいられないと思う。だったら、このステレオタイプの嫌な人間に一個いいところを作ればいいんです。それをしないでこの男を書くから無理が出る。
ジガバチのエピソードも、ギュッと掴みたいところで考えたことだと思うんですけど、人から見ればとても弱いんですね。そんなには心に入ってこないんです。難しいですね。

奥田 : ここで掴んだと思うのが、きっとほとんど掴めてないんだよね。決めゼリフは出さないほうがいいと思うなあ。

角田 : ほんとですね。

奥田 : 避けて通ったほうがいいね。もう、きっと九割がた外すから。

角田 : 読み手に見えてしまうんですね、ここはすごく力を入れたということが。

奥田 : とにかく、自分の半径五メートルから一歩も出ないよね。自分が歩くところに物語がついていく。何で沖縄に行くのか、全くわからない。

角田 : 去年も沖縄に行って、今年も沖縄に行って、それはいいんですよ。くり返し書くことで確実にうまくなりますから。でも、次に書くとしたら変えたほうがいいかもしれない。

奥田 : 実際住んじゃって、がっかりした話を書くとか(笑)。
これは、タイトルがよくないよね。

角田 : 何であえてこんなシブいタイトルにしてしまうのかな。

奥田 : 「私の気持ち」とか、そんなんでいいわけよ。気どらないでさ。

――応募作品を見ていると、タイトルって本当に難しいし、大事だなと思います。
では、次の作品「樹に憶う」にいきます。

角田 : これもタイトルが……。ちょっといろいろ詰め込みすぎた感じがありました。詰め込みすぎて、全部が有機的に作用し合ってないという印象を受けました。全部がつながってないような感じがして、するんと読めないというか、読んでいてごちゃごちゃしてきたんですね。
それで、時系列がよくわからなくて、回想もごちゃごちゃしていてわかりづらい。
あと、細かいことですが、「早く働いて」と奥さんが言って、「世間体を気にするな」というようなことを言うと、奥さんが「世間体なんて気にしないわよ」と言って、「ただ、あなたが仕事を辞めたと話すと、相手が皆、嫌な反応をする」。これこそが世間体だったりするわけで。言葉の使い方が慎重じゃないという印象を受けました。
ただ、止まっていた時間がラストで動き始めるということを丁寧に書こうとしたんだろうなと思います。でも、ラストでの、絶望から希望への転換点が見えない。鰹を捌いたことで急に一緒に笑い合えるとしたら、そんなに長い間、夫婦の確執を持つ必要もなかったんじゃないかと。そういう意味で、メリハリがないかなと思います。

photo奥田 : 第一に、わかりにくいということですね。もうちょっと人に読んでもらうということを考えたほうがいいと思います。
設定、ストーリーの中にご都合主義があって、工夫が足りないというか、奥さんが階段の上に備え付けた棚からトイレットペーパーを取ろうとして、バランスを崩して下まで落ちて死産になるとかね。プロを目指すのならば、もうちょっとこういうところに一工夫凝らさないと、読者について来てもらえないと思いますねえ。
あれこれ策を練ったのはわかるので、そのあとがありありと出ているというのがこの作品の問題なのかなあ。アイデアを練るというのは非常に大事なことですが、それをちゃんと物語の下に隠さないといけないわけですね。それが、全面的に表に出ちゃっている。それは、最後の一行とかね。本人は決めゼリフのつもりなんだろうけど、全然伝わってこない。魚を捌くところが象徴するものなんかも、うまく伝わってこない。
もっと、地の文で描写をして、会話をもっと減らして、シンプルに書いたほうがいいと思いますね。
成功しているかどうかは別として、文章の各所に企みを持たせようとしている、そういう姿勢は買います。

角田 : この家庭の匂いは書けてると思います。ただ、ストーリーと言葉づかいに注意すれば、よくなるのではないでしょうか。

――次は、「スウとライオンと薬草売りの男」です。いかがだったでしょうか。

奥田 : これはSFアニメの世界ですね。私が全くわからない世界なんですが、文章がしっかりしているのが美点だと思います。
スウという女の子の声を潰すという発想が、まず一番素晴らしいと思いました。ちょっと思いつかない。そして、会話が一つもないですよね。いかがなものかと思うけれども、多分こういうものなんだろうなと思えば、ぐいぐい引きこまれて読みました。いい作品だと思います。
ですが、改行はしたほうがいい。
あとパニック・シーンとかがいっぱいありますが、どうしてもいま一つです。それは、テクニックで何とかなる。一番いいであろう、動きのあるシーンがだらだらと改行もなく書かれているのがこの小説の欠点ですね。この改行のないところで伝わってこないんですよね。これは、いかにも惜しい。もっと書けると思うんですよ。うまい戦闘シーンをもっと勉強すれば、いい作品になると思います。
あと、薬売りの男は大変重要な役回りなんだから、ちゃんと名前を付けてあげないと。
ラストのクライマックスが盛り上がりに欠ける。このラストもちょっと納得できないかなというのがあった。
こういう発想が僕には全くないし、こういう小説を読んだことがないので、大変興味深かったですね。

――応募作の中でも、この作品だけ雰囲気が違う感じでした。

奥田 : わからないんだけれども、上手い。そんなところです。

角田 : 私も、すごいなあと思いました。この人はほころびなく世界を作ってしまった、それは本当に見事だと思います。
それで、女たちが口がきけないとか、城の中と外とか、外側に続く荒野とかすごく見事に書いているし、ラストまでほころばせてないですよね。
ただ、あまりにも映像的で、頭の中の映像を写し取ったような感じがある。そうすると、どうしても言葉が映像に負けちゃうような気がするんですね。
それで、映像を見ながら書いた言葉を読んでいるような感じが残ってしまった。改行のないせいもあると思うけれども、ラストなんて緊迫に次ぐ緊迫なのに、それがあまり生きてないなと思います。
「生きろ」というメッセージがたびたび出てきますが、これはこの小説には気の毒ですが、『もののけ姫』のコピーとかぶってしまったんです。あんまりそのメッセージが強いように思えないので、誰かの言葉という気がしてしまって。
なので、私はすごく最初期待して読んだわりには、もう一つ何かすごく足りないという気がして終わってしまいました。
ただ、本当にこの世界を最後まで綴ったというのは、すごいなと思います。

奥田 : なにか、メッセージはあった?

角田 : 「生きろ」という(笑)。何があっても生きろという。

奥田 : でも、これは盛り込み損ねているような気がするな。

角田 : そうですね。

奥田 : アニメのシナリオとして持っていったら、ひっかかるものかもしれないねえ。
僕は全く馴染みのない世界だから。文章はしっかりしているんだけど、実を言うと僕は絵が全く浮かばなかったのね。アニメは見慣れてないし、SFに関心がないというのもあるんだけれども。逆にいえば、この作品はそういった方面のマーケットではもう通用するのかもしれないですね。でも、タイトルがね……。

角田 : そうですねえ。

奥田 : これは最初見たとき、アフリカを旅するような話だと思ったんだよ。

角田 : (笑)。全部すごくちゃんと書けているんですけど、そうわからないんですよね。あまりにぎっしりしているからかな。

奥田 : 改行なしというのは、読むのは辛いよねえ。

――確かに、かなりぎっしりしていましたね。
では、次の作品にいかせていただきます。「素見」はいかがでしたか。

photo角田 : 面白く読みました。「宿命」というテーマと時代とか、性差によって生じる宿命というものを書こうとしてちゃんと書いていると思います。
吉原の世界を丁寧に作ろうとしているんですが、ただ、ちょっと物足りないところがありました。最初は武士の娘だった人が吉原に来たというところで若干変化があるはずですよね。吉原に来てから体を開くようになったという変化がもう一つあって、最後の最後でその宿命を受け入れるというような一番大きな変化があるんですが、ちょっとメリハリがないというか。主人公は、最初から吉原口調で、馴染んでいく過程というのがない。この女性の変化が見受けられないんです。
そうすると、最後にこの人が宿命を受け入れるときの盛り上げ方が、いままで変化がない分ちょっと足りないのでないかなという気がしました。

――変化がないのが気になりますか?

角田 : はい。でも、いい小説だと思いました。

――奥田さんはいかがですか。

奥田 : 面白く読みました。この中では一番入り込めた小説です。
知識がちゃんとしている人だと思うのと、文章にもあまり時代小説的な臭みみたいなのもないし、書き慣れた人なんじゃないかなという印象を受けました。
ただ、角田さんと同じように感じたところとして、女衒に買われていくシーンがあって、非常にいいシーンなはずなんです。それが全く淡々としていて、女心の葛藤とか、叫びとか、諦めとか、そういったものが全く描かれていないに等しいんですね。
歴史小説の弱点みたいな部分が出ているのは、解説が多いところです。これをいかにスマートになくすかというのが歴史小説家の手腕だと思います。これはやはり、女心がテーマだと思うんですよ。女の不幸みたいなものをちゃんと描いて欲しかったし、それにはもう一つ二つエピソードを加える必要があったのかもしれないし。
ラストが、どうしても僕は納得がいかなかったんですが。謎の侍が敵討ちでという、その話は面白かったですね。ちょっとミステリ仕立てで、それは素晴らしいと思いましたね。それゆえに、何でこんな落ちをつけるのかと。残念ですね。

角田 : 私は、このラストのセリフがいいと思います。この人が自分の運命、宿命を引き受けて、それでも私はこの人生に添うという貪欲さ、逞しさみたいなものを書いたのかなと思います。
なので、もうちょっと売られていったときの悲哀とか引き裂かれる気持ちとか、落ちていく感じが出ていたら、この最後の一言がすごく生きたと思うんですけどね。

奥田 : そうですね。
この作者は時代小説を非常によく読んでいる方だと思います。僕だって、こういうのは会話文とか絶対書けないですよ。センスがあるんでしょうね。技量としては一番だと思いました。

角田 : 印象的でした。

奥田 : いつも前で待っている男が何者なのかという興味を、最後までずっと引っ張ってくるというやり方は正しかったし。だけど、もう少し女心の切実な部分を描いてくれればよかったのになあ。
なんか、男の作者かと思ったなあ。

――これで七本全て、意見をいただきました。いかがでしょうか。

奥田 : 「素見」と「スウ…」しかないよね。

角田 : 私は「スウ…」もいいとは思うんですが、去年取った作品とも似ていると言えば似ているというか。時代が特定されてなくて、ちょっと幻想的な世界があったと思うんですね。
もし、今年この「スウ…」を入れると、これでこの新人賞の色合が決まってしまう気もするし、何かひとつ弱いという感が拭えないんです。

奥田 : そうね、ファンタジー色が強いもんね。「素見」と「スウ…」の二人にどういうふうなのびしろがあるかということなんですよね。
「スウ…」は、わからないんですよ。

角田 : のびしろふくめて。

奥田 : そう。このマーケットがわからないし。でも、ここまでの発想力というのが素晴らしいけど、SFの世界というのがちゃんとマーケットがあるわけですよねえ。そっちでこの人応募しているのかなあ、ひょっとして。わからないからといって、ポンと切っていいのか、というのをこの人には感じるんですね。

角田 : うまいですもんね。文章はしっかりしている。

奥田 : そもそも自分には絶対こういう発想がないから。何かとっても価値があるのかも。

――不思議なものを読んだなという感じはありました。改行とか、もう少し読み易いと印象がまた違うんでしょうね。

奥田 : 「素見」に賞をあげたら、しばらくは歴史小説でいってもらうしかないもんね。江戸の女を描くとか、そういうことをやってもらわないと。

角田 : そうですね。

奥田 : これだけで判断しなきゃならないから、難しいなあ。前後に作品があるなら、それで判断できるのにな。

角田 : 「素見」は欠点はあるけれども、この人の個性で吉原を書いていけるかもしれないし、他の世界も書けるかなという気がします。奥田さんは、どうですか。

奥田 : 賞ではなく、発表の場を与えてあげたい、という気がしないでもないけどね。

――内容については出つくした感じがあるので、あとはお二方のご判断だけだと思います。

奥田 : じゃあ、「素見」を受賞作にしようよ。「スウ…」は落としていいものかどうか、わからないけど。

photo角田 : えっ、すごい大展開じゃないですか。

奥田 : うん。大展開。「スウ…」は『小説宝石』とカラーがそぐわない。やれるなら、他で出て来るよ。
やっぱり賞は出したほうがいいだろうと思う。角田さんは、どうでしょうか。

角田 : どちらかを選べと言われたら「素見」を選びます。

奥田 : 「スウ…」は出て来るときは、ちゃんと出て来るよ。ここですくわなくても大丈夫だよ。

――では、第2回小説宝石新人賞は、中島要さんの「素見」と決定いたします。
長時間にわたり、お疲れさまでした。選考を終えて頂いて、いかがですか。

角田 : 二回やって思うのは、面白いものはジャンルを超えて面白いということですね。何でもありだからこそ、単純に魅力が優先されるんじゃないかなと。

――奥田さんは今回で“卒業”ですが、何か、ご感想などは。

奥田 : 書いていて楽しいんだろうなというのは、伝わってきますね。それは新人賞の一つの役目なんではないかと思いました。

――それでは、本当にありがとうございました。

第2回小説宝石新人賞 中島 要 素見(ひやかし)