第7回小説宝石新人賞 最終選考 [完全載録]
第6回を迎えました小説宝石新人賞。応募総数1179編から一次選考、二次選考を経て、昨年に続き、朱川湊人さんと三浦しをんさんによる最終選考会が開かれました。白熱の議論のなか、お二人が大絶賛する受賞作が生まれましたーー|撮影・都築雅人 朱川湊人×三浦しをん

最終候補作品 応募総数1179編 * 梶原幸治 「ポンコツ女は涙が出るまで」 * 斎藤亮 「福州城琉歌」 * 淳 皓介 「認識の死角」 * 曽原紀子 「貧乏麦酒」 * たなかさとこ 「四ツ目屋奇譚」 * 長谷一馬 「手をつなげ」 * 宮本紀子 「雨宿り」  ※作者50音順 選考委員のお二人には、タイトルと名前のみ書かれた表紙でお送りしました。年齢、職業など、一切お伝えしてありません。

――今回は最終選考に七編残りました。まずは一編ずつ評価をお伺いしていきたいと思います。作者名五十音順で、梶原幸治さんの「ポンコツ女は涙が出るまで」からお願いします。

三浦しをん(以下三浦) : 私はB+をつけました。テンポはいいですし、ユーモアもあります。ただ、タイトルはどうでしょう。
また、全体的に感覚が汚いように思えます。食後のスプーンをポケットに入れたり、ニキビをつぶしたりする場面がありますが、登場人物が全般的にだらしない。他にもお風呂場の排水溝に髪の毛が流れていくのを見ていたり、その辺のだらしなさが気になる。日常を描くのはいいですが、リアルに描き過ぎるのがいいとは思えない。
あとは、最後にキリンの檻に、空き缶を投げる場面は許せないですね。

朱川湊人(以下朱川) : 僕も、評価はB+でした。三浦さんと同じくタイトルが、いまどき「ポンコツ」というのは……僕の世代でも言わないんじゃないかなぁ。
主人公の女性ですが、描き方はこんなものなのかなとは思いましたが、共感はできなかった。子どものときから笑ってばかりいて、悲しいときにも笑っているというのが二、三回出てくる。自転車を川にダーッと流した後で笑う。やっているところを想像したら、まともな人の行動じゃない。
作劇的なところでいえば、一番おいしい「コンビニの乱闘事件」を書いてないのが残念ですよ。

三浦 : 全体的に盛り上がる場所が少ないですよね。

朱川 : あれを書いたら、評価が上がったと思います。派手に書くことで、それぞれの人物の動きが出て、面白くなると思うんですよね。

三浦 : 人間関係もわかりにくいですね。主人公の恋人だった佐伯にいろいろ事情があったということは後からわかってはくるんですけど、もともとおかまのマチルダ姉さんと知り合いだったのかとか、そのあたりの描き方が曖昧で唐突に思えます。

朱川 : どこかで書いてあったとは思うけど、六年前に知り合って、途中一回切れて、主人公と付き合う。佐伯さんはそのころはバイだったわけでしょう?

三浦 : 別れた女のもとへ訪ねてきて、ずうずうしいと思っちゃいますね。あとはやっぱり人物の描き方。

朱川 : だらしない人が多い。

三浦 : ズボラでもいいんだと安心しましたけど(笑)。

朱川 : 最後も腹を抱えて笑うというので終わっているけど、それも七〇年代の映画みたいだよね。「悲しみ笑い」だと。もうちょっと違う切り口が欲しかった。

――次は斎藤亮さんの「福州城琉歌」です。

朱川 : 僕の「イチオシ」はこれなんですが。

三浦 : そうなんですか? どうしよう(笑)。

朱川 : 僕はAを付けました。A+といってもいいですが、手放しではありません。
文章に関しては非常に自然で違和感も覚えず、時代ものとして楽しく読めました。中国にいる琉球の人っていう設定もひねってある。僕にはあんまり馴染みのないジャンルで、テーマも目新しかったし、楽しかった。状況説明の仕方も上手です。
短編だと、伏線はわりと見え見えなのが多いんですけど、これに関しては、出した次の瞬間にはバレているので、あまり伏線らしくなくて、勢いで読めてしまうところがある。
残念だったのは、途中で捕まったヤマトの命が主人公に託されるような状況になるでしょう。けっこう手に汗握って次のページを読んだら、親方に丸投げしている(笑)。せっかくここで盛り上がるのに……と思った。
欲を言えば、もっと長くてもよかったのかな。六〇枚ほどですが、上限が一〇〇枚ですし、もうちょっと長いほうが読みごたえがあると思います。でも、いろいろな意味で一番楽しかった。

三浦 : 私は、これはあんまり推せないですね。C+でした。

朱川 : ええっ!

三浦 : 設定自体もいいし、物語は楽しく、最後は爽やかでいいなあと思います。だけど、穴が多いと思います。

朱川 : どこが穴でしたか?

三浦 : 全体的に目配りが足りないと思うんですよね。琉球、薩摩、それぞれの言葉の扱いが雑なんです。琉球人であるかないかを言葉で判断するという重要なシーンがあるわけで、その時に何語で会話していたかはとくに気にするべきことだと思うんです。
主人公がヤマトに質問しますが、質問してから琉球語だと気づく。これはやっぱり主人公の心情に則して考えるとおかしいと思うんですよ。琉球人だったら助かるなら、「琉球語」で切り出してみようと思うのが普通。それに「琉球語」で返した、と。作者の神経が行き届いてないというふうに思いますね。

朱川 : なるほど。

三浦 : ほかにも文章が雑な面があります。最初の方で、暑い陽射しのなかで、同僚に呼ばれて「涼しそうだな」と思う文章に違和感がある。そういう部分が多い。
また、朝鮮の役で、向こうに渡って通事となった善郎さんという人物がいますよね。もし、この善郎さんにも故郷の訛りがものすごくあるなら、その訛りを主人公と口裏を合わせる前から、もっとちゃんと出すべきだと思う。

朱川 : 三浦さんの話を聞くと納得してしまうなあ。全くそのとおり(笑)。

三浦 : 伏線の部分も、すぐに判明するから気にならないということですが、どうかな。だったら冒頭は橋の上じゃなくて、木の上にいて、お兄さんのことを何となく思い出していればいいじゃないですか。故郷の歌を歌ったりしているとかね。

朱川 : 確かにそうですね。それにしても、この人はなんで六〇枚でまとめたんでしょうね。

三浦 : これは、長編にしたほうがよかったかもしれませんね。

――次は、淳皓介さんの「認識の死角」です。

三浦 : C+ですね。謎解きはいいんですが、人物や会話に魅力がない。女性の言葉遣いも妙です。人物も古臭い気がして、現代とは思えない。文章にも同じような部分、情報の繰り返しが非常に多い。一方で、たとえば、この病院がある場所が瀬戸内だとわかるのが遅すぎたりする。もう少し文章を整理するべきだと思います。
また、作者の方は医療関係者なのかもしれませんが、医者のいい加減な部分も気になります。実際そういうところもあるのかもしれないけれど、患者としては、ちょっと不安になるので、慎んでほしいと思いますよね(笑)。素人からすると、非常に不安になる描写がいろいろある。

朱川 : 僕も、これはCです。とにかく、ストーリーを邪魔する要素が多過ぎる。この人は医療関係者かもしれないし、すごく詳しいのかもしれないけど、「知っていることを全部書かなくていいです」と思っちゃうんです。
リアルだとは思いますけど、それがストーリーを進めるのにあまり役に立っていない。器具の名前や、手術の段取りなどで専門用語が出てきますが、それがストーリーの勢いを殺しています。また病院の規模も最初はどれくらいなのかもわからない。脳外科があるから大きいはずだけど、そう思えなかったりする。
あとはやっぱり酒を飲んで手術するのはどうだろう(笑)。

三浦 : そうですよね。

朱川 : 自殺じゃないか、という謎もとってつけた感じ。そもそも、これは奥さんがちょっと心配して言っただけでしょう。「自殺なんじゃないかしら」みたいな。なのに何で、この先生がわざわざ自分の職掌を離れて、探偵するのだろうか、という気もした。
ちょっと変わった症例とかが出てきて、「ああ、なるほど、こういうのもあるんだ~」とは思うけど、これは小説的な面白さじゃないですよね。結局、この医者の先生のキャラクターが生きてない。

三浦 : キャラクターが立ってないですね。

朱川 : 立ってないですよね。あとは「認識の死角」というタイトルも硬かったかもしれません。

――次は曽原紀子さんの「貧乏麦酒」です。

朱川 : メモには「Bくらい」と書いてある。B+でもBでもどちらでも、ということかな。
文章は書き慣れている人という印象がします。生きていることにつきまとう「重さ」みたいなものはよく出ている気はしました。だけど、僕はこれを読んだ後、特にピンとくるものがなかったんですよ。「読んで面白かったか」と言われたら、「そこそこ面白かった」という感想しか出てこない。
主人公の女の人にもそれほど共感が湧かない。もう少し突き詰めてほしかった気がします。隣家の子どもには優しいのに、一緒にブローチを売っていたお兄さんにはけっこう冷たい。だけど、冷たいわりにはそのお兄さんとは二回もホテルに行ったり、唐突でよくわからない。なんか、それなりの段取りってあるんじゃないかと思うんだけど(笑)。
最後に出産シーンがある。出産して、隣の女の子が涙を流して、一応物語的に落ち着きはしますけど。だけど、主人公は、それで変わったわけでもない。坦々とした生活の一部みたいな感じがしたかな。どこか褒めようとか、けなそうとか、あんまり出ない感じです。

三浦 : 私も、Bです。とても丁寧で、日常のありふれた生活感というものをよくとらえていると思います。でも、主人公はビール飲み過ぎですよ(笑)、トマトも食べ過ぎ。
そして、作者と主人公との距離感が曖昧です。主人公をつき放して客観的に描くのか、思い入れを込めるのか。その部分が曖昧なのが気になる。主人公の年齢にも疑問を感じます。主人公の自己認識に違和感があるんです。主人公は自分をイケている女と実は思っているんじゃないのかというのが、読んでいて透けて見えるから違和感がある。
それから、繰り返しも多い。たとえば「カニ巻き汁」というのが出てきますが、主人公がそれを見て、カニをすり鉢で叩き潰すのだろうか、ミキサーで砕くのだろうかと思う。でも、その直前に、「足も身も臼に入れて杵で砕く」と商品の説明書に書いてある。得た知識を数秒で忘れてしまったのか! と思います。

朱川 : そう言えば、赤ちゃんが生まれたところでも、変なことをせずにほっておくのがいいだろうという記述が二回くらい出てくる。

三浦 : そうそう。そうなんですよ。

朱川 : 救急車を待つのがいいだろうと。

三浦 : 救急車が来るのがちょっと遅すぎる気がするし。あと、生まれたばかりのくにゃくにゃな赤ちゃんを小学生の子に抱かせるのもどうなんだろうと思いましたね。

朱川 : 主人公がアル中だったとか、自分の年もよくわからなくなってるとか(笑)。

三浦 : そうだったら、納得いきますね。

朱川 : だけど、多分そうじゃないでしょう。

三浦 : あとはやっぱりビールを飲み過ぎでしょう(笑)。

朱川 : 本数だけは、どこそこで五本飲んで、どこそこで二本飲んでとかって細かい。

三浦 : これ、飲み過ぎですよ~。計算したら、多分、四リットルぐらい飲んでいるんですよね。そして、トマトも食べているんですよ。

朱川 : 相当飲んでるなあ(笑)。

――次はたなかさとこさんの「四ツ目屋奇譚」をお願いします。

三浦 : 私はAをつけました。キャラクターは立っていると思います。シリーズ化を考えているのかな、と思う。文章もうまいし、謎解きもそれなりにおもしろい。一番楽しく読みました。
ただ、たとえば四目屋忠兵衛なんかは、外見をこちらに想像させるような楽しみが欲しいと思いました。一方で「商品見本」が出てきたりしますが、これは時代設定にそぐわない言葉な気がします。
また川崎宿が日本橋から二里半というのは違いますよね。距離とか地理感覚ももう少ししっかりしてほしいと思いました。

朱川 : 僕はB+を付けました。文章にリズムがあって、さくさく読めて楽しい。だけど、時々それが崩れて現代風な部分が顔を出すところが何カ所かあって、他がよくできているだけに、すごく違和感があった。
困ったのは、視点がころころ変わる点。いまのままだと視点が入り乱れて、誰の視点だかわからなくなるところがあります。
作品としては世界をきっちりつくろうとしているという態度に好感は持ちましたが、僕的には、「これって、いわゆる深夜アニメ的だよな」という気がした(笑)。
あと、お狛さんは怪力で女軽業師だったわけでしょう。キャラ、盛りまくっているなあと思ったんだけど、怪力は出てくるけど軽業は出てこないよね。そして、景気いいことも言っているけど、結局、人を好きになったこともなければ生娘だという話もある。じゃあ、いままで威勢がよかったのは、全部口だけなの? と思う。

三浦 : 私も、それがすごく気になった。世の中の裏も表も裏の裏も知っていると言っているはずなのに、全然知ってないじゃん。

朱川 : いままで見栄張っていたのか、君(笑)。あと、千太郎が入れ上げていたはずの女郎の雪路さんが、途中でいなくなってない?

三浦 : そうなんですよ。話を合わせてもらっただけみたいになっている。

朱川 : そう。話を合わせてもらっただけだということになっている。だけど、あの人は千太郎のことを、本気で好きだったんでしょう? 家のことは片付いたけど、その雪路さんは放置かと思うと……。

三浦 : ちょっとひどいですよね。何か心ない仕打ちのように私には思えます。

朱川 : キャラクターにひっかかりはありながらも、楽しいし好感は持てる。でも、好感を持てるということは、ある意味こっちの想像を超えていないということでもあるんだよね。型にはまっている部分があって、それってある種のお約束。安定感はあるけど、驚きに欠ける気がします。

――次は長谷一馬さんの「手をつなげ」です。

朱川 : これも僕はBですね。文章は非常に真面目な感じで、好感の持てる文体かなと思いました。お話的には、別に不可な部分はないと思います。ただ、最初のこのプロローグの部分と、続く本文の最初の「親父」の一言。ここでいきなり僕は戸惑いました。最後にはストーリーはちゃんと完結して美しく終わっているんだけど、僕としては主人公の心情に焦点を合わせた方がいい気がする。
結局、おじいちゃんと主人公と子ども、三人のむさい男の話で(笑)、三人を書くというのもいいけど、もっと主人公の、自分の本当の子どもじゃない子どもへの心情が描かれていたら胸に迫ると思う。
しりとりをするシーンとかはグッとはきました。息苦しいくらいにリアルだなと思いました。

三浦 : そうですね。私はB+でした。プロローグを誤読させる趣向にはまんまと騙されました。物語も誠実に描かれたいい話だと思います。
ただ、図式的過ぎるかもしれません。全体的なたくらみが優先されていて、心情が隠されている。心の描写をするとネタばれになってしまうので、それを避ける必要があって、結果として感情移入しにくい点はありますね。だから、いい話だとは思うけれども、心を揺さぶられるとまではいかない。とても惜しいと思います。

朱川 : これはこの話の主軸に相当するところだから外せないのかもしれないけれど。息子が自分の子どもじゃないと思ったら、実は自分も同じだったのかよ、ということだった。そうなると、複雑な事情だからこそ、もっと主人公の気持ちみたいなものを描いてほしかった。

三浦 : 家族への思いをもう少し読みたかった気はしますね。

――最後は宮本紀子さんの「雨宿り」です。

三浦 : 私はAです。文章はうまいし、心理描写もよくできていて、書き慣れている人だな、と思います。
全般的にいいんですけど、最後がどうなのかな……という気がします。普通なら伊之助は死んだほうがいい。二人にとってのクライマックスは、おこうに対して「生きろ」といったところだから。ただ、ハッピーエンドのようでありながら、実はもやもやしているのがいいとも言えるのかもしれない。
酸いも甘いも知っているおこうですが、心の底から優しい気持ちの人間であることが伝わる。だから読者は思い入れる。一方の伊之助のダメぶりも、物語に合っていていいですね。

朱川 : 僕もこの作品に関してはA+を付けました。文章も特に問題ないし、自然体で、すごく物語の中に入りこめました。
気になったのは、冒頭の部分で行ったり来たりが多過ぎる点。最初は包丁を持って伊之助を追いかけている場面。その次に、場面説明があって、彼女が船宿のおかみだという説明。次に最初に男と会って金をやっている。金をやってから、思い直して追いかけているところにつながる。この辺の流れが、最初はすんなり読めなかった。もうちょっと書き方を工夫すれば、と思うけれど、この人は「包丁を持って男を追いかけている」という書き出しにしたかったんでしょうね。

三浦 : この映像が浮かんでいたんでしょうね。

朱川 : だから、そこはきっとこの人も、どうすればいいか苦心したんじゃないかな。

三浦 : 確かに、そうですね。でも、包丁を持って追いかけているという冒頭だからこそ、興味をひかれもしますね。

朱川 : ここは整理のしどころで、きれいにやれと言うんだったら、それこそ包丁の場面ではなくて、船宿のところに伊之助が現れておこうがビビッて、もう「お金を上げる」というところに持って行ってもいいのかもしれないけど、包丁にこだわるとこうなるよね。

三浦 : 説明しなければならない事情はいくつもあります。でも、その割りにはうまくいっていますよね。

朱川 : だからだめとか、そういうことでは全然ない。包丁持って追いかけているんだから、冒頭からいきなり、おこうさんはテンパッてもいいと思うんだよね。最初の一ページの半分ぐらいは、おこうが伊之助を殺すと思いながら走っていてもいいんじゃないかなあ。

三浦 : そうですね。息せき切って走っていて、遂に伊之助の背中を視界にとらえたところで過去の回想シーンに入るとか。

朱川 : 言うべきところはそんなところだけで、他に困るようなことはないと思うんですよ。あとはやり手婆のオツネさん、あの情景がすごくいい。この人がいることで、物語が厚くて深いものになっている感じがする。
ラストも、辛い過去のある二人が、結局二人で生きていこうと決めた。ある意味何だろう、また違った地獄に落ちたわけでしょう。雨宿りが終ったというか、これから雨どころか沼に沈むんですよ、あんたたちという。

三浦 : このラストはどうかな。単純でもいいから二人は死んでてもよかったかも。

朱川 : 僕は、二人でじめじめしながら生きていくのもありかなと思う。殺した人間のことをチクチク思いながら。決してめでたしじゃない。

三浦 : おこうもそれは自覚しているんだけど、伊之助は死んでくれたらって思う。二人で沈んじゃいました、でもいいし(笑)。

朱川 : 勧善懲悪じゃないけど、悪は栄えずで、何となくこっちもすっきりするからね。でも殺されたヤツも、ろくなヤツじゃなかったし。

三浦 : 殺された場面にもっと含みを持たせるのがいいのかな。もう腹も刺されていて、そこに首を絞めたわけで、ほっといても死ぬじゃないですか。これ多分、実際なら罪悪感を都合よく忘れると思うんですよね。もっと積極的に殺せばいいのかもしれない。

――一通り講評いただきました。それでは、最終的な検討をお願いします。お二人の評価が低かったのは「認識の死角」でした。

朱川 : 残念ですが、この作品は一段落ちる気がします。

三浦 : そうですね。「ポンコツ女~」もあんまり積極的には推せないですね。テンポ感というか、ユーモアとか、そういうのはすごくいいなと思ったんですけどね。

朱川 : さっき言いそびれたけど、やっぱりキリンに向かって空き缶を投げるのは俺も許せないと思った(笑)。

三浦 : うん。自転車も不法投棄ですしね。

朱川 : 自転車の不法投棄は目をつむってやってもいいけれど、キリンに缶を投げるのはどうだろうなあ。順位があるんだったら、三等ぐらいかなというイメージ。少なくとも、これは新人賞にはならないかなという気はする。積極的に推すところまではいかないかな。

――「貧乏麦酒」はどうでしょう。

三浦 : 悪くないんですけどね、何かが……。

朱川 : 悪くないんだけど、切り取ったものを見せられただけで、あんまり物語的にワクワクもしなかったし、ドキドキもしなかった。「ああ、そうですか」という感想が出ちゃうお話かな。

三浦 : そうですね。

朱川 : 「雨宿り」だったら、二人で泥沼に沈むんだとか、そういう感想を持ったけど、こちらにはない。スタートとゴールが同じ場所という感じかな。

三浦 : そうですね。「雨宿り」は、今後を想像させますよね。それに比べると、作者はもっと物語に没入して書いていいですよね。

――「福州城琉歌」は?

朱川 : 僕は完全に三浦さんの意見で転びました(笑)。

三浦 : ハハハ、そうですか。

朱川 : いちいち「なるほどねえ」と思ってしまいました。

三浦 : あと、こういう作品だと、どうしても『テンペスト』を思い出しますね。

朱川 : 確かにね。僕も、最初思いました。

三浦 : 『テンペスト』は、過剰なぐらいの熱量がある作品ですが、あの感じから比べると、琉球の風俗とか、言葉とか、文化に対する目配りがちょっと足りないかなと思います。
しかも、それがすごく大きな主題になっているにもかかわらず、言語に対しての目配りの足りなさというのが、私は一番気になるところでしたね。

朱川 : 全くおっしゃるとおりです。ヤマトの命がこの人に委ねられたみたいなことだって、それなりに読んでいてハラハラもしたんですよ。物語的には波もあったし、悪くないと思うけど、僕もそこに全然目を配ってなかった。勢いで納得していた部分もあったかもしれません。ですから三浦さんに言われたら、「全くそのとおりだ」と。三浦さんが言ったことを全部克服して、話も長くすれば……。

三浦 : そうですね、これはもっと長編で書くべき作品ですね。そのときに、琉球語とか、薩摩弁とか、そのあたりにもうちょっと目配りする。題材は絶対にいいと思うから、うまく工夫したらおもしろくなる。長編でぜひ書いていただきたいですね。

――では「四ツ目屋奇譚」を。

三浦 : 「四ツ目屋奇譚」はAにしたけど、確かにちょっと軽いですよね。このテイストは悪くないけど、よくある感じはします。あと、「小説宝石」ではどうなのかなというのがありますね。私、「コバルト」の新人賞の選考もやらせてもらっているんですが、そちらだったらどうかなと思ったんです。こういうのはけっこう人気になるかもと思うんです。ただ、こういう作品って、よく見かけるんですよ。

朱川 : どこかで見た感じがする。と言うか、ツボを押さえ過ぎているんですよね。ただ、一番エネルギーがあるのはこれだと思う。だから、そういうところで、落とすのはもったいないところがある。だけど、「これを推しますか」と言われると、考えちゃうんですよね。

三浦 : うまくまとまってるがゆえに、既視感があるのは否めないですね。

――「雨宿り」と「手をつなげ」が残りましたが。

朱川 : 「手をつなげ」に関しては、いわゆる「華」がないんですよ。地味でシブくていい話なんですが、賞だと考えたときにはどうだろうか。もっと派手な設定を、というわけではないけれど、減点するところがなく、完成度が高いから、逆に地味でこぢんまりとしている感じがする。

三浦 : 確かにそうですね。

朱川 : だから、「手をつなげ」と「雨宿り」を二つ比べて、どっちかを落とせと言われたら、多分「手をつなげ」を落とす。

三浦 : 私も、そうかも。「雨宿り」は全体的にバランスもいいし、うまい。登場人物の魅力という点で考えても、「雨宿り」の人のほうが見えてくる部分が多いですよね。

朱川 : そうですね。「手をつなげ」は、キャラクターというよりも仕掛けが重要。三浦さんが言ったみたいに「手をつなげ」は病気のところを隠してなきゃいけないというのがあったんで、どうしてもメインの主人公の心情がいまいちわからないまま話が進んでしまう。最後に「ああ、そうだったのか」と納得はするんだけれど。

三浦 : まんまと騙されたし、うまいと思うけど、ずっと心情が見えないのが残念ですね。だけど、そこをクリアすることはこの話のつくりだとできないですものね。

朱川 : できないですね。

三浦 : 難しいですね。作者が描こうとしているテーマみたいなものはすごくいいなと思うんですよ。いい作品なんですけどねえ。そうなると「雨宿り」かな。

朱川 : 「雨宿り」でしょうかね。

――「雨宿り」は、最後に二人が死んだ方がいいという話も出ましたが。

三浦 : ちゃんと登場人物はわかっていますからね。この後は泥沼に落ちていくということがわかっていて、雨が上がったこの一瞬を味わっているところですからね。次の瞬間にはまた雨が降り出すわけで、そう思うとやはりうまいです。

朱川 : そして、いわゆる「惚れちゃったんだから、しょうがないじゃん」というのは、いまのご時世に逆行していていい。いまはやたら婚活とか流行っていて、相手のスペックばかり見ている人が多いのに、「惚れちゃったんだから、しょうがない」と言われると、「しょうがないよね」と、僕の世代は思っちゃう(笑)。

三浦 : 有無を言わせない感じがありますね。
それに、惚れるのもわかるんですよね。伊之助のダメで、かつ、ちょっといい男という、この感じは、すごくうまく出ていると思いました。「なんでこの男に?」とは思わないし。

朱川 : 伊之助が盗んだ金で物を買ったり、食わしたりして、それをおこうが喜ばないというところも、リアル。

三浦 : それで、喜ばないおこうに逆ギレするというのもわかりますよね。他のどの作品よりも、すべての登場人物に「ある、ある」と思えるものがある。この作品でしょう。

朱川 : やっぱりお話としてのできは「雨宿り」が、上だと思います。

――では、新人賞は「雨宿り」に決定しました。どうもありがとうございました。

第6回小説宝石新人賞 宮本紀子「雨宿り」