第7回小説宝石新人賞 最終選考 [完全載録]
第7回を迎えた小説宝石新人賞。今年は新しい選考委員に唯川 恵さんをお迎えし、朱川湊人さんとの間で最終選考が行われました。白熱した議論の末、応募総数998編から選ばれた作品は―――。|撮影・都築雅人 朱川湊人×唯川恵

最終候補作品 応募総数998編 * 有馬周一 「中行説」 * 石黒みなみ 「満月の向こう側」 * かなえ想 「ガキの約束」 * 斎藤 亮 「赤道の琉球人」 * 坂本けんいち 「学校が来い!」 * 長谷一馬 「後藤さんの健康手帳」 * 麻宮ゆり子 「敬語で旅する四人の男」  ※作者50音順 選考委員のお二人には、タイトルと名前のみ書かれた表紙でお送りしました。年齢、職業など、一切お伝えしてありません。

――今回は最終選考に7編残りました。作者名五十音順で、まずは有馬周一さんの「中行説」からお願いします。

朱川湊人(以下朱川) : 僕はB++。限りなくAに近いです。僕は今回ちょっと厳しくて、Aがいないんですよ。
 今回のなかでは最も小説の体をなしていて、読み応えがあるし、文章も丁寧な印象がありました。ストーリー運びや描写も至れり尽くせりで、匈奴というマイナーな世界に入っていきやすいようにちゃんと説明がされていて、好感が持てました。

唯川恵(以下唯川) : 私はB+です。
 スケールが大きく、物語として人を惹きつける力があります。題材は面白いし、丁寧に資料を調べられているのも感じました。ただ、この枚数ではちょっと書ききれない印象がありました。長編向きではないでしょうか。また、これは私の知識不足でしかないのですが、人名や地名など読みづらい文字にはルビが欲しいところです。

朱川 : 僕が引っかかったのは、薀蓄(うんちく)の部分。「この時代は、中国の皇帝でさえ葡萄を食べていなかった」とか、途中で詩が入ってきたりとか。作者は書きたいんだろうけど、そこでストーリーの流れが止まっちゃうので、どうしてもというほどでもなければ、カットしたほうがいいと思います。
 あと、お姫様が途中からおざなりになっているんですよね。お姫様と中行説の関係をもっと書けたら、そこで面白くなったんじゃないかな。お姫様も結構ステレオタイプで、もうちょっとキャンキャン言うお姫様でもいいと思うんですよね。

唯川 : 私も、姫との関係について、あまりにあっさり終わっているのが気になりました。そこにドラマがあれば、もっと幅や深みがでたのではないかと思います。また、少年のときに宦官になった中行説が、男としての葛藤が一切なく、正しく普通に生きているというのも、物語としてちょっと寂しい気がします。主人公の心の揺れみたいなものが感じられなかったのが、残念でした。

朱川 : おっしゃるとおり、時代小説だろうが現代小説だろうが、読みたいのは〝人の心の揺れ〟なんですよね。
 この中行説というのは実在の人物だから、ストーリーの流れはどうしても決まっているわけですよね。だから、史実がドラマチックだったら、小説がドラマチックになるのは当然なんですよ。もちろん、作者が埋めてくれた〝中行説がどうやって匈奴と仲良くなっていったか〟というミッシングリンクがすごく丁寧で納得がいくけれども、もうちょっと飛び出してほしい。

唯川 : 面白かったからこそ、足りないところが悔しいです。

――次は、石黒みなみさんの「満月の向こう側」です。

朱川 : 僕はBを付けました。
 率直に結論から言うと、悪いところは特にないです。弟の正体が最後まで掴めないというのがちゃんと伝わってくるし、文章もよく書けているし、悪くないとしか言いようがない。
 その分、世界がすごく小さくてこぢんまりしているんですね。つまり、平均点は取っているけど、それを超える何かを欲しいというのが新人賞ではないですか。大きな傷がなければいいわけでもないんですよね。

唯川 : 私も、Bです。
 いま朱川さんがおっしゃったことは、そのとおりだと思います。淡々とした流れに好感が持てるし、独り暮らしのスーパーマンのようにカッコよかった弟が、実はいろいろと辛かったのだというのが見えていく過程もよかった。
 ただ、小説として物足りなさが残ったのは、せっかく登場させた綾乃と、厄介者らしき親戚の省吾、そういうキャラを、生かし切れないで埋もれさせてしまったところです。

朱川 : お話の作り方も及第点というか、馴れていらっしゃるという気がしました。ただ、試験ではないので、もうちょっと抜きん出た何かが欲しいんですよね。
 逆に最後は、関西弁で「どんどん迷惑かけたろやないか」となるところが、ちょっと取って付けたようにも感じました。

唯川 : あと、二ページ目、四行の中に「こと」が六つも出てきます。文章のそういう細かいところにも少し気を使う必要があるかもしれません。

――次は、かなえ想さんの「ガキの約束」です。

唯川 : 私はB-です。
 主人公の年齢がなかなか出てこないと思っていたら小学六年生だったのでびっくりしました。
 物語自体は、とてもシンプルで心温まる話です。その中でわざと主人公を、普通の女の子とまったく違った子に設定した。その設定とプロローグに加えた過激さが、残念ながらうまく成功しているとは思えませんでした。シンプルなままでもよかったのではないかと思いました。

朱川 : 僕は評価としてはC+ですが、B-でもいいみたいな感じです。
 主人公はセクシー小学生ですが、確かに最初は小学生だというのがなかなか出てこなくて、結構緊張して読みました。
 そうなると、何でこの女の子がこういう性格になったのかを知りたいんですよ。彼女ははぐれ者的なところがあるんですけど、何でそうなったのかとか、それが生来の性格なのかというのを感じさせる何かが欲しかったです。
 あと、主人公はすごく大人っぽいんだけど、逆にほかの小学六年生が幼な過ぎる。特撮キャラクターの下敷きは、さすがに小六では持ってないでしょう。
 それと、二七歳の男と付き合っていたというエピソードがありますよね。その男と何かあったのか? あったと書いてあったら、主人公が大人っぽいのも納得できる。でも、そこがスルーされていて、合コン相手も中学生だったりして、子どもなのか大人なのか、ちょっとよくわからなかった。

唯川 : 私も、この子は処女なのかという疑問はありました。作者も迷ったのかもしれません。そこははっきり書いてもよかった気がします。そうすれば印象もずいぶん違ったはずです。

朱川 : ラストシーンで、「ちゃんとした大人になりたいと思った」と書いてあって、その次に「私は絶対にいい女になってやるぞ」と書いてある。ちゃんとした大人と、いい女は違うの? 一緒なの? という疑問もありますよね。主人公の「ちゃんとした大人」というのは何? というのを、お話の中でわかるようにしていればよかったなと思います。

唯川 : 私も「ちゃんとした大人になる」ことと「いい女になる」ことは違うと思いますが、小学生ならこういう矛盾が自然にあるとも言えます。でも、そういう矛盾を持つくらいの小学生が、二七歳の男と付き合うというのにも違和感があります。そういう収まりの悪さも気になりました。
 あと、私としたら、タイトルはもう少し工夫が欲しかったです。

朱川 : そうですね。タイトルもちょっとセンスがないかなと思います。

――次は、斎藤亮さんの「赤道の琉球人」です。

朱川 : この方は前回も最終候補に残った方ですね。僕は、B+を付けました。
 前回の選考会で、三浦しをんさんが「その場面で何の言語をしゃべっているかがとても大事だ」ということをおっしゃっていたんですよ。通訳の話だったので、それは本当に大事なところだったと思います。今回読んだ限りでは、それはクリアできていると思いました。
 ただ、逆に困ったことが起こっていて、視点がころころ変わり過ぎる。小説というのは、主人公の視点を借りて読者がその世界を掘り下げていくので、視点がころころ変わると掘り下げ方もほどほどになるんですよ。

唯川 : 私は、Bです。
 朱川さんと同じで、視点の変化がスムーズではなく、成功しているとは思えませんでした。そのせいもあって、なかなか物語を楽しめませんでした。
 作者はとてもこの世界に詳しい。それはよく伝わってきます。ご自分ではいろいろなことがわかって書いていらっしゃるせいでしょうか、読み手にとってはテンポが速過ぎて、じっくり読みたいと思ってもすぐに場面が変わってしまう。もう少し余裕を持って楽しませて欲しかったです。

朱川 : 馴染みのない世界のお話だけれども、細かく丁寧に説明されている点は非常にわかりやすくていいです。
 ただ、このお話で感じるのは、枠組みはすごくしっかりしているけど、それについている肉が少ないという印象なんですね。この作者はすごく丁寧に、設定や時代背景を書くんですけど、もっと人物を動かしたり、アクションを書いたほうが面白いと思います。状況説明とアクションを一対三ぐらいの比率で書くようにすると、すごくよくなると思う。

唯川 : この枚数で収める物語ではないと思います。これも長編向きではないでしょうか。話を盛り込み過ぎだし、登場人物も多過ぎる気がしました。たとえばですが、友情物語にするとか、ストーリーに核になるものを持ち、それを土台にして書き込んでいったほうが伝わったかもしれません。
 あと、耳慣れない単語が次々と出てきますが、この世界に詳しい人にだけ読んでもらいたいのではなくて、エンタテインメントとして多くの人に読んでもらいたいのなら、わかりやすく伝わるよう、もう少し配慮があってもいいかもしれません。

朱川 : 眞五郎はキャラクターとしては面白いんだけど、ヒーローとしては中途半端な感じもしますね。
 あと「このとき、眞五郎は無意識に出生地の博多の言葉を喋っていた」とあるんだけど、示されている言葉は、どう見ても標準語ですよね。わざとだったら意味不明だし、見落としだったら甘過ぎる。こういう雑なことをやられると、読者は「信用できない」と思うもんですよ。そこは、ちょっと注意したほうがいいと思います。

――では、坂本けんいちさんの「学校が来い!」です。

唯川 : 私は、これはCです。
 この作品に対しては、申し訳ないのですが、私はあまりよい読み手とはなれませんでした。「ガキの約束」は小学六年生と思えない大人びた女の子が主人公でしたが、これは逆に、高校生がここまで子どもなのかという印象です。
 それと、主人公の男の子が母親に嫌われて島の学校に送られるという設定なのですが、どうしてもそれが納得できませんでした。母親がそこまで息子を嫌悪するのは無理があると思います。
 禅問答みたいな問いかけや、哲学的な言い回しがあるのですが、それがあまりうまく収まっていなくて、なかなか馴染めなかったです。

朱川 : 僕は、ちょっと甘めにBです。
 まず、設定がよくわからない。東京都内の離れ小島だということがかなり後になってから出てきますが、最初はわからなかった。あと、まともな大人がひとりもいないというのが、僕みたいな年齢になるとカチンとくるんですよね。
 さらに途中で隠されていたエロ本が見つかって、それがクラスメートの女の子に似ていたので、その女の子が泣いたというシーン。そんなことで泣くか? という感じ。その程度のことで泣くとは思えないし、主人公が取った行動で、何かが解決するとも思えない。
 要は、社会に対して、それこそ唯川さんがおっしゃったような禅問答みたいなことをしておきながら、結局、女の子のことでじめじめ悩んでいるんだなと思うとすっきりしないんですよね。
 それと、主人公の母親が指を切ったとき「大丈夫?」と声をかけただけだった、というエピソード。声をかけるだけでも充分じゃんと思いますよね。

唯川 : 主人公は意外と温かい。

朱川 : そこで包帯を巻いてくれるところまでやらないと、人間の心がない冷血漢ということになるの? と。

唯川 : これで主人公をダメ人間と設定するのは無理でしょう。いい子ですから、彼は。

朱川 : そうですよね。やれと言われたら、嫌々でも学級委員をやっていますしね。全体的に設定に無理があって、読者を置きっぱなしなところがある。
 これを読んだときに持った印象は「ああ、楽しんで書いたんですね」という感じ。書き終わった後、一ヵ月くらい置いてから読み返したほうがいいと思いましたね。

――次は、長谷一馬さんの「後藤さんの健康手帳」です。

朱川 : この長谷さんも去年も残っていた方ですね。前回の作品を一〇とすると、今回はせいぜい三か四という気持ちを持ちました。だから、これは何の抵抗もなくCを付けています。
 第一に、お話のメインがお年寄りの歯石除去というのはどうよ(笑)。

唯川 : そこですか。

朱川 : それに専門用語が次々出てくるでしょう。使ってもいいんですけど、作者は調べて書いたからわかっている。だけど、読む人はそんな人ばかりではないんだから、せめて描写するべき。

――なるほど。

朱川 : 結局、このお話で起こっているのは、主人公の女の子が勤めている歯科医院で、係長クラスの仕事をするようになる、ということですよね。そこにまず、お話としての魅力をあまり感じない。主人公にも好感が持てなくて、「私、こうなんです!」「私は正しいんだから、男は全部、話聞きなさいよ!」と、自分語りをずっとされてるような印象でした。
 あと、後藤さんが結核で死んでいますよね。結核って、病気の中ではビッグネームでしょう。もちろん、それ以前に癌であるんだけど、結核患者が歯医者に来るかなあ。排菌していないタイプなんだったら、そう説明しないといけないですよ。
 それで最後、健康手帳の中にちょっと泣けることが書いてあって主人公はグッとくるんだけど、その程度のことはみんな考えてると思いますよ。生きているお父さんには批判的で冷たいのに、死んだ人の書き置きだと感動してくれるんだ? と思っちゃいましたね。

唯川 : 朱川さんがCなのにこんなに熱く語るというのは、逆によほど何か惹きつけるものがあったのだろう、と感じたのですが。

朱川 : この方が前回書いたのは、もっとよかったんですよ。あの方の作品だと思うと非常に残念な感じですね。

唯川 : 私は、B-です。
 話としては気持ちのいい内容だと思っています。ただ私も、結核というのがすごく気になりました。結核は伝染病だから簡単に使えないと思うのですが、なぜその病にしたのか? そこに意味があったのかもしれませんが、私にはわかりませんでした。もし、何となくそれにしたというのであれば安易だったと思います。この作者は、主人公を二つの世界で書いています。歯科衛生士としての世界と、彼氏やお父さんとのやり取りを含む私的な世界。けれども、いろいろ迷ったり悩んだりするのを、この枚数の中で解決するのはやはり難しいでしょう。たぶん作者は、シリーズ化としていくつか書いていく中で、さまざまな患者さんと出会いながら、主人公がどんどん成長していくという構想を練っていらっしゃるのではないでしょうか。それなら理解できます。
 文章は上手いと思いました。ただ、少し個性が欲しいところです。

――最後は麻宮ゆり子さん、「敬語で旅する四人の男」です。

唯川 : 私はAです。
 大変面白く読みました。文章にちりばめられたそこはかとない可笑しさ、重たいことも軽く書けるし、軽いことも意味ありげに書ける、というのがこの作者の個性で、それがとても心地よく伝わってきました。こういうセンスが、いわゆる小説家としての素質なのではないかと思いました。
 淡々とした四人の関係や珍道中も面白いし、四人それぞれの個性も私はとても好きでした。文章もこなれていて、とても巧みな言葉づかいをしている。砂金を取るとか、朝食はパンじゃないと絶対イヤだとか、本筋とは関係ないエピソードも、取って付けたようなわざとらしさはなく、キャラがしっかりしているので、むしろ、とても有効に出ていたと思います。ただ、タイトルは、少し不満が残りました。

朱川 : 僕は、B++です。
 僕は唯川さんと逆で、タイトルが面白かった。これは何かな? と興味を持たせる。ただ読んでみると、敬語で旅をしきっていないところもあって、ちょっと看板に偽りありなんですよね。
 僕もこの人はたぶん、才能がある人だと思う。なぜ四人で佐渡に行ったかというのもちゃんと説得力があるように書けているし、それも、ちょっととんちんかんな事情だったりして面白い。お話としてそれほど傷もないし、ほんとに読んでいて面白かったです。

唯川 : 主人公のお母さんが女性と暮らしているというのも、すんなり受け止められたし、最後にお土産を持たせてくれるくだりも印象的で、押さえるツボはきちんと押さえている、という気がします。
 主人公が突然、スケッチノートらしきものを取り出したときは、唐突な気がしましたが、大した問題ではありません。

朱川 : この作者は真面目なんでしょうね。その真面目な性格が災いして、弾けきれていないところがあって、僕はそれがすごくもったいなかった。例えば、宿をキャンセルしてでも、お母さんの家に四人を泊まらせたほうが面白かったと思う。

唯川 : 私は、弾けないところが好きでした。うまく抑えていって、余韻を残す。そこに、今の淡々とした男の子の、あまり突っ込んでいかない部分も出ている気がしました。

――ひととおり選評が終わりました。評価としては、「中行説」と「敬語で旅する四人の男」のふたつが高評価でしたが。

朱川 : 僕も、そのふたつのどちらかだと思います。唯川さんは「敬語~」のほうが評価が高いんですね。

唯川 : 私は、いつもナンバーワンだけは決めてから来るので、それで「敬語~」です。でも「中行説」もとてもよかったので、話し合いのなかで決めていければと思っています。

朱川 : 僕も気持ちのうえでは、「敬語~」かなと。
 なぜかというと、「敬語~」の作者のほうにすごく可能性を感じるんですよ。たぶん、この人は面白い話を書ける人。「中行説」の作者は、いつでも「平均よりやや良い作品」を出せる人だと思う。
 だけど、頭ひとつ抜けたものを書くには、少し時間がかかるかもしれない。「敬語~」は、既に何か感じるんですよね。もっといろいろ、この人に書かせてみたいという気がする。

唯川 : ジャンルのまったく違う小説を比べるのは、本当に難しいですね。
 ただ、「中行説」といった歴史物は、ある意味、お手本となるものがたくさんあります。そのなかで、本当にこの作者でなければ書けないものということになると、題材ではなくて、やはり料理の仕方です。そういう意味では、「中行説」はあまりに正統で、真っ当過ぎたかもしれません。

朱川 : そう、正統派ですよね。

唯川 : だから、とても面白いのに最終的に迫るものが少なかったのかもしれません。けれども、本当にきちんとした小説を書かれる方なので期待度は高いです。

朱川 : こちらとしては、スポーツのレスリングじゃなくて、プロレスが見たいんだよ! という気持ちなんですよね。

唯川 : やはり「中行説」では、主人公の成功物語だけではなくて、そういう状況に陥った葛藤も読みたかった。

――「敬語~」には、あまり欠点がないという選評でした。

朱川 : あっても、許せちゃうんですよ。例えば、美術館にひとりで行ったらゲイと思われるの? というような引っかかるところもあるんだけど、スルーして、次へ、次へという感じで読んでいってしまう。

唯川 : 主人公の彼は、やはりゲイなんでしょうか。そこはちょっと曖昧な感じになっていますが、でもその曖昧さも、この小説に似合ってる気がしました。

朱川 : たぶんこの作者は、「敬語~」で一冊作るから、あと四本書いてごらんと言ったら、書けると思うんですよ。

唯川 : 私もそう思います。読みたいですね。

朱川 : 唯川さんに「読みたい」と言わせているというのが、もう大きいですよね。決まりじゃないでしょうか。

――では受賞作は「敬語で旅する四人の男」に決定しました。ありがとうございました。最後に全体の講評をお願いします。

photo朱川 : さすがに最終選考に残るだけあって、みなさん総じて達者でした。だけど、どの作品も小さくまとまっている印象がありました。ある意味、そつなく書けているものばかりですが、新人賞ということを考えると、もうちょっと横紙破りなものというか、抜きん出たものを求めたいということですよね。

唯川 : 私は、冒頭で気を引こうとするあまりに、出足を過激に書き過ぎているのが気になりました。出だしが強烈なだけに、時に、どんどんつまらなくなっていくという負の感触が残るケースもあり、あまり意識し過ぎないほうがいいと思いました。

朱川 : やはり読者が読みたいのは人の心の動きであって、そこに共感できるか否かで、そのお話の面白さは決まっていくんですよ。読者は、なるべく上手に乗せてほしいんだから、まず設定面でツッコミどころがあると乗れない。それに、不明な言葉が特に説明されずにいると、やはり気になって乗れない。小説というのは、そういうことを望む人たちを相手にしているので、これは避けて通れないことだと思います。

唯川 : そうですね。特にこの賞はエンタテインメント小説ですから、まず、読ませるための、いい意味でのサービス精神が大事だと思います。自分がわかっていることを読み手がわかるかどうかを、冷静に考えて推敲する必要があるでしょう。  あとやはり、文章の良し悪しが大きいと思います。読みやすい文章は大切ですが、自分にしか書けない個性のある文章を持つことがとても強みになります。ストーリーばかりに気を遣うのではなく、それも意識しておくといいかもしれません。

第7回小説宝石新人賞 麻宮ゆり子「敬語で旅する四人の男」