第8回小説宝石新人賞 最終選考 [完全載録]
第8回を迎えた小説宝石新人賞。応募総数911編から、一次選考二次選考を経て、昨年に続き、朱川湊人さんと唯川恵さんによる最終選考会が開かれました。白熱した議論のすえ、本賞初となる優秀作が選ばれました。|撮影・都築雅人 朱川湊人×唯川恵

最終候補作品 応募総数911編 * 大西智子 「カプセルフィッシュ」 * 佐倉永梨 「クールクリスタルクライマックス」 * 長谷一馬 「告知」 * 藤 凛太郎 「三番館の奇跡」 * 水嶋七瀬 「ロッキン・チェリー・エクスタシー」 * 南杏子 「黒電話」  ※作者50音順 選考委員のお二人には、タイトルと名前のみ書かれた表紙でお送りしました。年齢、職業など、一切お伝えしてありません。

――今回は最終選考に6編残りました。作者名五十音順で、まずは大西智子さんの「カプセルフィッシュ」からお願いします。

唯川恵(以下唯川) : 評価はB+です。
とても気持ちよく読みました。文章も上手いし、展開も悪くないし、書ける人だなと思います。
傷ついた女性が田舎に行って、子どもたちやいい人たちに出会って心が癒されていくというパターンはありがちですが、エンタテインメントとして必要なツボをちゃんと押さえています。ぱちこの存在も面白かったです。
うまくまとまり過ぎていて、かえってそこが物足りない印象がありました。

朱川湊人(以下朱川) : 僕もB+です。
いきなりトータルの話をしますが、今回の六本はどの人も達者なんですよ。だけど、群を抜いて「おっ、これはすごい!」というのがなかった。その中で、一番よくできていると思ったのが、この「カプセルフィッシュ」です。
文章や作劇に特にまずいところもないし、唯川さんがおっしゃったように、ありがちなパターンだなと思うけれども、その分、安定したよさがある。六作ある中で、次の作品も読んでみたいなと思ったのはこの人のみでした。ただ、事件やイベントみたいなものがちょっと少ないかなという気もします。
あと、ラストで主人公が結構明るくなるわけです。不倫相手が中学校のときから自分のことを気にかけていたということがわかって、何か憑き物が落ちたようになるんですけど、この後、ヨリを戻すんですかね。

唯川 : そこは私も気になりました。主人公はどう選択するのかなと。

朱川 : ええ。ヨリを戻すんだったら、「えっ! それはないだろう」という気もちょっとします。終わり方としてはもっと別の生き方を見つけていくほうが僕としては好きなんですが、その辺は、作者の意図を掴み切れなかったところがありました。

――次は佐倉永梨さんの「クールクリスタルクライマックス」です。

朱川 : 僕はBです。
まず読めばわかりますが、この作者は言語感覚のすごく鋭い人ですよね。それなのにこのタイトルでいいのかなという……。英語タイトルというのは、よっぽどツボにはまったものでないとイメージを喚起しないんですよね。これだけ日本風の感性で来た人が、いきなり「クールクリスタルクライマックス」かと、ちょっと不思議な感じがしました。
いろいろガッチリ書き込んで、すごく硬い感じの世界ですけど、話としては割と普通なんですよね。そして終着点が、いわゆる「放たれた」という主人公の個人的な考えじゃないですか。それってやっぱり共感性が薄いんですよ。「自分はパッとここで切り替わりました」みたいなことを言われても、「そうですか」で終わってしまう。
事象とか空気に対する批評が多くて、この主人公がやっていることは実は大したことないんですよ。全部受け身で、向こうから来るのをいろいろ評価したり、けなしたりして流れていく。彼女が自発的に動いたのは、痴漢を追いかけて映画館を飛び出したところだけでしょう? あと、主人公が途中で彼氏のことを〝自分の都合のいいものしか見えない眼鏡を持っている〟と、手厳しく評価しているんだけども、「いや、君もそうだよね」と思っちゃう。あまり主人公を好きになれませんでしたね。
文章は、この人の特徴なんだろうと思いますが、息が抜けないというか、僕は読んでいて結構魂が疲れました(笑)。

唯川 : 評価はB-です。
私もタイトルがどうしても馴染みませんでした。
全体的に素直に読めないトーンというのがあって、漢詩が出てきたり、ニーチェが出てきたりするのですが、それが鼻につく読者もいるんじゃないかなと思いました。
作者は、主人公の心の奥底にある、重たく冷たいものを伝えたかったんだと思いますが、それを伝え切れていないと感じます。ものすごく言葉を使っているし、過去を思い出したり、いろんな人が出てきたりするんだけれども、肝心なところの的を外しているというか、辿り着けてないもどかしさがずっとつきまといました。
母との関係や、自分の性癖みたいなものが、読者を説得するほどの迫り方をしないので、結局、流されているだけという印象なんですね。
せっかく書道というすごく魅力的な素材を持っていて、青木さんという師匠も魅力的だから、もっとそれを活かしたほうが主人公の想いが描けたのではないかと思います。

朱川 : 教育長がけっこう手慣れてて、安いおじさんなんですよね。この人とちょっと何かあったからって、ポンと放たれちゃうのは少し安い気がしてしまう。

唯川 : 私も、教育長とのことがなかなか馴染まなかったです。どうしてそんな簡単に、「この人、結構可愛いかも」と思うのか……。主人公の心の流れみたいなものに乗れなかったというのはありますね。
いろいろあったんだけど、始まりと辿り着いた場所が結局同じだなあという感じでした。目覚めていったとか解放されたとか本人は言っているんだけれども、この子は何も変わってないんだなという印象です。

朱川 : そもそも、主人公がちょっとピンとこない。よっぽど、その友達とか先生のほうが興味を惹かれるというか。

唯川 : 私もです。やっぱり、良いにしても悪いにしても、主人公が一番魅力的であってほしい。まわりばかりキャラが立ち過ぎて主人公が埋もれてしまったかもしれないですね。

――次は長谷一馬さんの「告知」です。

photo唯川 : Bです。
 とても面白く読ませてもらいました。ただ「この展開はどこかで聞いたことがあるな」という既視感が拭い切れないというか、新しさが感じられないのが残念でした。もうひとひねりした主人公にしたり、見方を変えたりすることで随分印象も変わると思います。かえって、科捜研にしたことが損だったのではないかと思いました。人気のドラマもありますしね。また、すり替えネタがあまりにもわかりやすかったので、推理ものとして物足りない感じがしました。
 でもエンタテインメントとしてとても楽しませてもらったし、人情ものも入っているし、いま警察小説はすごく人気があるから、ちょっとやり方を変えれば非常にこれから書ける人なのではないかという気がします。

朱川 : 僕は、C+からBです。
この長谷さんという方は、僕が選考委員をした三回、すべてに残った方ですね。去年は歯医者さんのお話を書かれていました。

唯川 : ああ、すごく覚えてます。同じ方なんですね。

朱川 : 三年連続最終選考に残られていますので、実力のある方と言っていいでしょう。今回は科捜研というメジャーなジャンルですよね。前回もそうでしたけど、本当に関係者なのかと思うくらいよく調べられていて、すごくリアルな空気があります。ストーリーの流れもきれいで、よく考えてあると思います。
ただ、メインキャラクターの赤鬼と呼ばれる男が、いわゆる胴間声を上げる体育会系の荒くれ刑事。ちょっとパターン過ぎる気がしますよね。そしてこの作者はきっと、赤鬼が好きなんでしょう。ひいきの引き倒しをしてしまっているところがあって、僕としてはそういうところが嫌なんですよね。〝水谷君ひとりを悪者にして、体育会系だけが集まって仲良しになった〟という印象しか残らないですよ。
たしかに水谷君は変わった人間ですけど、変わった人間もいていいと思うんですよね。むしろ、そういう人に対して胴間声を上げて威圧するような人が愛されるというのが、まずおかしいと思う。結果的に水谷君はひどいことをしたけれども、それは本当に赤鬼の自業自得ですよね。
 例えば水谷君が、現代っ子のもっと軽い悪党だったらよかったんですよ。友達もいて、おちゃらけていて、「赤鬼を困らせてやろうぜ」というキャラクターだったら、お話も成立したと思います。
あと、自分の娘を殺したのがあの男だと確信する理由が、「刑事の勘」と「父親の勘」で、さすがに勘二連続はきついと思います。
どうもこのお話は、すっきりしないんですよね。作者の方が乗った部分は、最後の送別会のシーンだと思いますが、このシーンは全然要らないと思います。

――次は藤凛太郎さんの「三番館の奇跡」です。

朱川 : 評価は、C+からBです。
僕はこういう文体とか、こういう感じのお話はあまり得意じゃないです。何も小説というのは、全部気取って書かなきゃいけないわけじゃないんですよね。
まず、周囲が善人過ぎますよね。メモリーカードを落とすけれども、次から次へと「でも大丈夫、でも大丈夫」という保険がどんどんかかってくる。あまり事件が 大事おおごとじゃなくて、結局この主人公が「俺ってカッコいいよな~」と言っているのをずっと聞かされている気がするんですよ。そういう意味で、スリルがあまりない。
あと、そのわりに堂々と置き引きされるほど間抜けだし、隠しポケットにメモリーカードを入れてあるけど、どうも読んでみるとケースにも入れず剥き出しに入れているようで、それはあり得ないだろうと思うんですよね。
そしてメモリーカードを見つけてくれたのが元カノなんですが、あれだけ騒いでおいて、お客様に連絡もせず、届けもせず、最後は元カノを家まで送るんですよ。「君、なくす前と全然変わってないじゃん」と思っちゃいますよね。
しかも、母親の形見みたいな大事なものをあげておいて、忘れているんですよ。ちょっと同調できなくてピンとこなかったです。

唯川 : 私はBです。
すごくいい話だし、これといって傷はないし、でもやっぱり気持ちよ過ぎて物足りないというのはありますね。小説の新人賞というよりも、「心に残る感動ストーリー」の系統かなと思いました。朱川さんがおっしゃったみたいにいい人ばかりで、魅力ある悪役というのがいないと、「ああ、よかったね」でスーッと読んで終わってしまう。
まずタイトルを見ただけで「ああ、こんな感じだな」とわかりますよね。メモリーカードをなくした時点で、「どうやって見つかるのかな。きっと、元カノが出てくるんだろうな」と、そのとおりになる。ある意味の気持ちよさはあるんですけどね。
ケチをつけるところはないのですが、突出したものもないので印象としてどうしても薄くなるし、この人独自の魅力や個性が感じられませんでした。

朱川 : 道具立てもちょっと古い感じがしますよね。相変わらずオードリー・ヘップバーンを絡めてみたり、型にはまってる印象です。まあ、置き引きが品のいい老夫婦というのは、ちょっと新しかったかなと思いますけど。

唯川 : ああ、そうですね。
やっぱり、これはほんとに毒がなさ過ぎるんですよね。傷でもいいから、何かしら読み手に残してほしい。もっと手応えが欲しかったです。

――次は水嶋七瀬さんの「ロッキン・チェリー・エクスタシー」です。

唯川 : 評価はB-です。
これは非常に作者の個性がよく出ている作品だと思いました。内容的にはかなりキツい話で、いじめがあったり虐待があったりしますが、そこをうまく、イヤな感じではないやり方で描く力を持っている人だと思います。
九歳の主人公がこんなに大人なのかなとも思うけれども、まあ、小説はそういうものだし、アダムという人もなかなか魅力的です。でもやっぱり小児性愛というのは、読者をすごく選ぶと思うんですね。アダムが男の子のものをしゃぶるシーンで、「男の子なんてそんなことは忘れる」という前提で語るところがありますよね。でも、私はこういう考え方が小児性愛を増長させていくんじゃないかという思いがあります。小説に道徳を、なんて全然思っていないけれども、読者が受け入れるか受け入れないか、ものすごくはっきり分かれる小説だなという気がしました。
あと、最後がよくわからなかったんですよ。ルナちゃんのアダムに対する感覚がちょっと変わったのか、それともやっぱり男の人なのか……。私はそこが読み切れませんでした。
それから、タイトルも合っていないと思います。

朱川 : 僕はBで、括弧して小さく+ぐらい。なぜかというと、作劇的に上手いし、お話としては面白かったと思うところがあるので。
やっぱり僕も小児性愛に引っかかりました。こんなことされたら、男の子は忘れないですよ。

唯川 : 私も、そう思います。

朱川 : これで一生曲がるヤツもいますよ。男だったら何やってもいいわけじゃないと思う。
ルナちゃんとアダムのキャッチボールとかは結構面白いと思うんだけど、何だか、やっていることが陰湿なことなので……。多分、最後にアダムが捕まってたら面白かったんですよ。ルナちゃんの前でアダムが手錠をかけられたりすると、何となく見ているほうも「よし!」と思う。
候補作六本を読んだときに、これと「カプセルフィッシュ」が、作劇的には面白いと思ったんです。だけど、これを「新人賞です」と言って出すのはイヤだなという気もちょっとある。生理的に気持ちの悪いところがあって、ついていけなかったかな。だって、アダムはただの犯罪者ですよ。だから、書く能力は評価しますけど、作品世界はあまり評価しません。
唯川 私も、小説家としては興味深く読ませてもらったけれども、読者としてこの小説を読みたいかというと難しいなと思いました。

唯川

――最後は南杏子さんの「黒電話」です。

朱川 : 評価はBです。
途中まではすごく面白かった。老人サスペンスというのは新しいなと思って読んでいたんですよ。話の作り方も非常によくできているし、よく書けているなと思ったんですけど、ちょっと急転直下に変化し過ぎるんじゃないかな。
この江古田さんの行動というのは、確かに疑われてしかるべきことなんですよね。「あなたが一人でいたのは、私がいたからですか」とか危ない発言をしておきながら、実は弟さんを引き上げてくれた警官の息子さんということがわかるわけです。じゃあ、なんで見合いのときに江古田さんは断ったの? という気持ちがどうしても出てきてしまう。それに翡翠のツマミを持っていなかったというだけで、こんなに評価を変えていいものかな。
どんどん主人公が狂気じみていく様子はなかなかサスペンスフルで、「おお、これはいいんじゃない」と思ったんだけど、最後に急に江古田さんを受け入れて、わりといい人になってしまっている。ちょっと肩透かしを食らったかなという感じの作品でしたね。
あと、最後のほうに「かつて、十八歳で上京したときのような不安」というのがありますけど、え、上京してきたの? そもそも、ここどこなの? 子供のときからずっと同じところに住んでいるはずだから……という。

唯川 : そうですよね。私も、上京したってどこに書いてあったんだろうと、思わずページを探しました。

――唯川さんの評価はいかがですか。

唯川 : 私もBです。
私も朱川さんと同じで、謎かけがすごく面白いのに、その謎にひとつも答えがなかったのが物足りなかったですね。
最初は想像力を掻き立てられて、「これ、どうなるんだろう。江古田さんって何だろう? ほんとにストーカーなんだろうか? この人自身が本当は壊れているんじゃないか?」などといろいろ想像したのに、何もない。ほんとに投げるだけ投げておいて、あとは背を向けてしまっている。突き放されたような感じがしましたね。
老人ホームの独特な空気感みたいなものはあるし、謎の作り方も面白いのに、なぜこういう展開にしかできなかったのかと、とても残念に思いました。
途中からは、母親の呪縛から逃れる話なんじゃないかなと思いました。主人公は死んだ弟の分まで母親から愛されない、というような……。ただ、それも出すのが遅過ぎで、もうちょっと前のほうに上手く持ってきてもいいんじゃないかなと思いました。
ある意味、すごく残念な感じがする小説で、文章も上手いし、この人独特のものもあるのに、それを活かせなかったという気がしますね。丸く収めようとしないで、最後はもっと弾けてもよかったんじゃないかなという気がします。
「十八歳で上京~」のくだりは、やはり違和感が拭えず、読者に与える印象をもう少し計算するとよかったと思いますね。

朱川 : そうですね。たぶん単純なミスなんだと思いますけど、結構致命的な、作品世界を揺るがすような疑問を感じてしまうわけなので、それはよく注意したほうがよかったですね。
ちなみに何枚ぐらいで書かれていますか。

――七十四枚です。

朱川 : もう少し増やして、すわりをよくしてもよかったかもしれない。
短編だと、人情系でまとめていい話にするのがよいと皆さん思っていらっしゃるのかな。

唯川 : そういうのがウケると思われているのかもしれないけど、それだけでは物足りないという感じになります。

朱川 : そうですね。確かに〝新人賞〟と考えたときに、あんまりなオチをつけないというのはわかりますが、あまりにも「いい話」に着地させようというのが見え見えになると、ちょっと鼻白んでしまいますよね。

――ひととおり選評が終わりました。ほとんどがBという結果になりました。

朱川 : 皆さん、それなりによく書けているので、けなしたりするところが少ないんですよ。文章もよく研究しているみたいだし。

唯川 : 読みづらい文章などもなくて、書き慣れているなと感じました。かえってそれが、退屈にしてしまっている気もしますね。みんな違うようで、似ている感じです。

朱川 : そうですね。平均化しているのかな。傾向と対策をバッチリしました、という感じ。今回はどれも、粒が小さい気がしましたね。皆さん、気が小さいというか、何かが起こったらすぐ収めよう、収めようとする。

――番評価が高いのは「カプセルフィッシュ」ですが。

朱川 : 僕はどちらかと言うと消去法的な、ほかが若干力不足だからこれが一番ということなんですよね。

唯川 : 私もこの中では一番いいと思います。でも、最後はどうなるんだろう……。

朱川 : そう、最後に何か釈然としないものが残りますよね。主人公はカプセルに入っているような気持ちになっていたわけでしょう? それは、不倫相手が中学のときから自分のことを気にしていたということだけで、解放されちゃうような性質のものだったということ?
あと、あまりぱちこちゃんも活きていない気がする。ぱちこちゃんと主人公はどこが融合したのかなと、ちょっと疑問を感じちゃいますよね。

唯川 : 確かに、ぱちこの存在は面白いのに、あまり関わってないですよね。せっかく魅力的なキャラを作ったのに。

朱川 : そもそも、これはどこなんだろう。

唯川 : そうそう。急に関西弁が出てくるから、私もどこなのかなと思いました。関西とか、瀬戸内とか、最初にちょっと入れておくと、あとから方言が出てきてもすんなりいくと思います。

――ほかの作品で、何か争えそうなものはありますか。

朱川 : 「黒電話」かな。

唯川 : 「黒電話」のちょっとゾワゾワした感じというのは、とても良かったですよね。ほんとにもったいないという感じです。

朱川 : あと、タバコ屋のババアが死んだくだりは良かった(笑)。たしかに途中まで面白かっただけに、ガッカリ感も強いですね。

photo――「ロッキン・チェリー・エクスタシー」も評価が高めでしたが。

朱川 : お話そのものはほんとに面白いんですよ。ただ、唯川さんがおっしゃったように読者を選び過ぎる。

唯川 : 小説なんだから、当然、こういうものを書いて構わないと思うけど、その向こうの覚悟みたいなものが見えないんですよね。アダムは「男の子なんてすぐ忘れる」と思っているのかもしれないけど、作者は「そうじゃないこともあるんじゃないか」という思いを持って書かないといけないと思います。

朱川 : ちょっと違う材料で書いてみたら? という感じですね。

唯川 : そうですね。こういう形じゃないものも書ける人だと思うので。

――では「カプセルフィッシュ」が受賞ということでよろしいでしょうか。

唯川 : 私はこれがいちばん良かったと思うので……。朱川さんは?

朱川 : 僕は過去二回選考をさせてもらって、我ながらいい人を選んだと思っているんですよ。それに比べると、今の段階ではまだちょっと、この作者は未知数。前回のおふたりに比べると、内容的にも作品的にも、若干至ってない気がします。同じ賞でいいのかと言われると、う~ん……。「副新人賞」ってないのかなと。

――前例はありませんが、たとえば優秀作というのはどうでしょう。

唯川 : 優秀作でもデビューはできるの?

――もちろんです。

唯川 : この中で一番いいというのは合致しているので、やっぱりこの人にはデビューする機会をあげてほしいと思います。

朱川 : そうですね。この人は多分、ほかも書けそうという気もするので。

唯川 : 私も、この人はちゃんと読者の的を外さず、きちんと押さえられる人だなと感じます。これから先も続けられそうだし。ここに応募したというのが、この人がつかんだチャンスだろうから、何とか表には出してあげたいと思います。

――それでは優秀作ということで「カプセルフィッシュ」を選ばせていただきます。ありがとうございました。

第8回小説宝石新人賞 大西智子「カプセルフィッシュ」