対談 奥田英朗&角田光代が読む!選ぶ! 私たちが求めるのはこんな小説なんです!

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満を持して、いよいよ始まります「小説宝石新人賞」。選考委員の二人が、これから応募してくるあなたのためだけに、こっそりと選考基準、傾向と対策を教えます。奥田英朗と角田光代、この二人の選考委員がどんな作品を待っているのか、心して応募作品を練りに練ってください。

奥田 : 角田さんのデビューは?

角田 : 私は、『海燕』(休刊)という文芸誌の新人賞です。奥田さんは、新人賞に応募されたのではなくて、持ち込まれたというのは本当ですか?

奥田 : そうです。好きでもない作家に選考されたくねえよーって(笑)。僕はたまたま出版社に知人がいて、「小説書いてみたいから」と文芸の編集者を紹介してもらって、持ち込んだんです。

角田 : それまで小説を書いたこともなかったんですか。

奥田 : 事実上ないですね。

角田 : へえ~。

奥田 : 本になったあと、担当者に聞いたんですよ。「ものになると思ったから付き合ってくれたのか」と言ったら、「わかんない」って(笑)。その作家が殻を破るかとか、そういうのは誰にもわからない。

角田 : 確かに。いくつかの文学賞の審査委員を何回かやらせていただいて、私は作品そのものが面白いか面白くないかはわかりますが、ひょっとしてこの人には「こういう未来の可能性があるかも」というのは、どうも読めないですね。客観性と自己懐疑。覚醒していることが重要です

奥田 : それは読めないですよ。でも、新人賞に応募するときは選考委員が誰かを見るわけでしょう。

角田 : はあ、考えたこともなかったです。

奥田 : デビュー前に好きだった作家は中島らもさん。中島さんが選考委員の新人賞があったら、僕は応募していたかもしれません……。僕はミステリ系がまったくわからないし、ハードボイルドも全然わからない。そういう人たちの名前が選考委員に連なっていても応募しないわけです。角田さんも苦手なジャンルってあるでしょう。

角田 : はい、あります。

奥田 : それは何ですか。今のうちにはっきりさせたほうがいいですよ(笑)。

角田 : 時代を知らないから、時代小説とか弱いです。

奥田 : 時代を知らなくても、カテゴリーとして時代小説とくくらなくてもいいわけでしょう? 恋愛小説が、たまたま江戸時代の話だったとか。

角田 : そうですねえ。

奥田 : 僕はミステリ。あっと驚くトリックで驚かないんですよ(笑)。バーッと読んでいって、最後に「これかよ」って。みんな面白いと言うから読んでみても、「ええ?」という感じ。僕はトリックに驚かないというか、必要としてないから。

角田 : それはわかるかも。ある小説を人に薦められて読んだんです。ずーっと物語が進んでいって、最後に、例えば男が女だったりして、何か「実は」というのがあって……。「これは何なんです」と編集者の方に聞いたら、叙述ミステリだと教えてもらって。私も驚けないんです。楽しみ方がわからないんですよね。

奥田 : そう、わからない。だから、ミステリ志望の人はこの賞に応募するのは、やめたほうがいい(笑)。ハードボイルドもダメですね。

角田 : 私は大丈夫だと思います(笑)。でも、さっきおっしゃったような恋愛小説だけど、たまたま江戸時代だったようなこととか、そういうのって、きっと何にしてもいいものは面白いと思うんですよ。

奥田 : あと、基本的に覚醒していない人は苦手です。酔っている人は。

角田 : 客観性がないということですか?

奥田 : そうですね。客観性と自己懐疑。私小説でも、自己懐疑のわかっている人はいるでしょうし。僕はハードボイルドだめだけど、角田さんがよければ。

角田 : アハハ。普通には読めますけど、でも、誰も私にハードボイルドを読んでほしいと思わないでしょう(笑)。私の場合、客観性と自己懐疑というのは、書き始めてようやく気づいたことなんです。書き始める前にいちばんわからなかったのが、客観性と自己懐疑で……なんだかイヤだな(笑)。

奥田 : アハハハ。

角田 : 奥田さん、毎回作品が全然違うじゃないですか。「誰? この人」って、いつも思うんですけど(笑)。私は変え方がわからなくて、煮詰まったことがあるんです。言葉にはしませんでしたが、そのときに初めて客観性と自己懐疑、これなのかというのがぼんやりと見えてきた気がします。

奥田 : 僕は、表現の中でいちばん嫌いなのがナルシズムみたいなものです。もちろん全否定するつもりはないし、強度なナルシズムがいい作品を生むということもあるんでしょう。でも、好きじゃないんですよ。カッコ悪い。カッコいいって、何か、正体不明みたいなものが一番だと思っていて、作品の場合も、もちろん自分自身は投影されますが、なるべく見せないで物語を書くべきだと思っています。

角田 : ナルシズムよりも、私は自意識を捨てるのにすごく苦労しました。例えば、自分の小説の中で歌手を書くとしたときに、自意識が許さないときがあるんです。つまり、自分が浜崎あゆみを好きじゃないとして、その好きではない浜崎あゆみを書けないという自意識はありますよね。

奥田 : それは、当然ありますよ。

角田 : その自意識がものすごく強かったような気がして、それに、「あっ、これ自意識だ」と思って、別の目線で浜崎あゆみを書くことができるようになったのが最近です。浜崎あゆみは、たとえですけど。

奥田 : それに、文章が下手だとまず読めないですね。新人の場合は、文章力じゃなくてパワーというか発想が重要で、「文章力は後からついてくる」という人がいるけど、ついてこないと思う(笑)。

角田 : アハハ。確かに。新人賞を審査するときは、どんなに荒削りでも、奥に原石が光っているのがわかるから、少しぐらい文章が荒れていてもいいと、よく聞くじゃないですか。原石がきっと光っているんだろうと思って読むと、文章が荒くれていて、光っているのを読んだことがない(笑)。

奥田 : ストーリーと描写があった場合、僕は多分描写のほうを取ります。だから、描写よりストーリーが勝るものより、描写がストーリーに勝るほうが好きです。

角田 : そうかもしれない。ストーリーラインだけで言えば大概のものはすでに書かれているし、すごいストーリーってないですよね。本当に描写かもしれませんねえ。

奥田 : 映画だってプロットの面白さと役者の魅力と両方あって、僕はプロットよりも役者が上回っているのが好きなんです。多分、ストーリーというのは、こういう人間になりたいがための理由づけで、洋服みたいなものですよ。ストーリーよりも、登場人物ありきですね。イッセー尾形さんの一人芝居があるでしょう。あの人はすべて描写で何の説明もしないわけです。いきなり始めて、5分ぐらいしたら、「ああ、この人はこういう人なのか」とわかってきたら、また、オチのないところで……。小説でも、短編でも長編でも、そういう描写が欲しいんですよね。「こんな奴いないだろう」と思ったら、もう読めないでしょう? そういう意味で、角田さんは会話を書かれることを気にされますか?

角田 : 会話は気にしますよね、やっぱり。別れ話でも、恋愛の最初でも、あまりにも滑らかに会話が滞りなく進んでいって、恋が始まったり、終わることなんて現実にはないじゃないですか。人と人の言葉って、通じ合わないところでガチャガチャやっていくわけで、私は滑らかなうっとりするような会話が嫌いなんです(笑)。「嘘」がきれいにコーティングできていればいい

奥田 : 読んでいて、明らかに、「あっ、この一言を言いたいがためにいままで書いていたんだな」みたいなのがありますよね。それはちょっとうっとうしいというかね。

角田 : 書くこと自体は本当に恥ずかしいですよね。仕事していて恥ずかしいと思う。例えば、すごくいい文章が書けたなと思ったときに、それって、同時にとても恥ずかしいことでもあると思うんです。羞恥心を持って書くということがあるかないかで違うと思います。特に、これから書く方は、それがもろに出ると思うんですね。

奥田 : あと、告白のある文章というのは説得力があると思いますね。ほんの小さなことでも、「この人、こんなことを考えているのか」って。

角田 : ところで奥田さんは、小説を書くのに、知識って必要だと思いますか?

奥田 : どういう知識? 情報的なもの?

角田 : そうです。奥田さんは、いろいろなことを知っているじゃないですか。

奥田 : 知りませんよ(笑)。

角田 : 知っていると思います。

奥田 : じゃあ、知っているように見せかけているんだと思います。

角田 : でも、引き出しが一杯ある人に思えるし、その引き出しには、もちろん資料とかを調べる部分があるのかもしれませんが、もともと持っている引き出しの中の知識がすごく多いと思うんですね。そういうのって、小説家になりたい人にとっては必要なのか、そうでないのか。

奥田 : う~ん、基本的に想像力だと思いますねえ。僕は取材もほとんどしないし。でも、その想像力を引き出す部分を捻出するのは、多分蓄積だと思いますねえ。ただ、経験と言っても、「どれだけ感じていたか」ということなんです。若いころわからなくても、いまわかることってあるし、そういうのが人生経験のうちに入るのではないかと思いますが。

角田 : ああ、なるほどね。例えば、20代でわからなかったのに、それが30代になれば、わかってくることもある。ちょっとでも知っていれば書きやすいということはあると思います。

奥田 : あとは、人間のリアリティ。小説のリアリティは、登場人物のリアリティだと思うので、最初に二つ三つ本当のことを書いて、後は全部嘘書いても……。

角田 : そうか。確かに、私も女の人が起業する話を書いたときに、わかることだけちょっと書いて、後はすごく嘘を書いて、これで読んだ人から「こんなふうに起業できるわけないじゃん」と言われたらどうしよう、とずっと思っていたんですけど、案外言われないんですね(笑)。でも、多分それが言われないのは、取材とかがうまくいっていたからではなくて、嘘のつき方、表現の仕方がうまくいったんだと思う。嘘をきれいにコーティングできたんだなと。

奥田 : 僕は、はぐらかす技術はあると思うんですね(笑)。わからないことは、はぐらかしながら、よけてとおりながら行くというのかな。あと、人間がやっていることって、基本的にみんな同じで、ずさんなんですよ。人間、みんな大したことはないという信念みたいなのがあるので、それに則ってやっていくと、どんな組織でも同じようなことをやっているんじゃないか、というふうに思って書くわけです。調べて書くというのはやめたほうがいいと思う。それから、キメたつもりのセリフというのはやめたほうがいいと思う(笑)。だいたいキマってないから。

角田 : 私は、ご都合主義がダメですね。

奥田 : 僕も絶対ダメです。

角田 : 昔、下読みをしていたことがあって、そのときになぜか多かったのが50代、60代の男性が書いているんですが、主人公も50代、60代の男性で、18、19の娘さんと街で、ハンカチを落としたりして知り合って、エッチするという。

奥田 : 何も書いてない。ただの願望ですよね(笑)。

角田 : そこには書いた人の都合しかないように読めたんです。あと、人が簡単に死んでいく話も、泣ける小説が流行ったので、作者の都合で悲しいことがとにかくあるというのが多いじゃないですか。それが、ちょっと残念ですね。

奥田 : 大抵、新人賞の応募は、その半分ぐらいが自分のことで、半分ぐらいは恨みつらみらしい(笑)。何か、世の中に一言言ってやろうみたいなのってだめなんです。根本的に、他人はわからないという心を持っている人でないとね。

角田 : そうですねえ。

奥田 : でも、自分にも覚えがあるけど、「これはすごい! 絶対に傑作だ!」と思うのね。これはすぐ本になってベストセラーになるんじゃないかと思うのね。だけど、そういうことはまずない(笑)。経験の浅い人が客観的になるのは難しいですが、それでもやはり客観的に考えたほうがいいですね。

角田 : 確かにそうですね。

奥田 : あと、最終候補に挙がったものは真面目に読みます。任期は2年だけなので、僕に読んでほしいという奇特な方はこの機会にどうぞ。

私たち、真面目に一生懸命読ませていただきます角田 : 私も一生懸命読ませていただきます。第1回の賞だし、選考委員が2人いる。しかもパッと見、パッと読みで、2人ともすごく印象が違うと思うので。この賞に応募する人は、とらえどころがないと思いますが、私なら、選者2名の本を読みますね。さっきの奥田さんではないですが、この人にこの小説を読ませてもしょうがないって思うこともあるだろうし、逆に「とらえどころ」も見つかるかもしれない。でも、「奥田さんはこういうのが好きだろうな」と思って書くと、必ず違う(笑)。もしくは、奥田さんの世界観ととてもよく似たものを書くと、きっと張本人にコテンパンにされる、そう思いますよ。